この世に新しいものなどない。ただ、忘られたものがあるだけだ

by 高崎健司

かつて洋服は自分のお気に入りの布を自分で買って、自分のお気に入りの仕立て屋さんで仕立ててもらうものでした。
その中でも最高の品質のものを仕立てるお店をオートクチュールメゾンと呼びます。

今回の映画制作では、オートクチュールメゾンを営むMay & Juneさんに、南北戦争の時代を生き、生涯ほとんど大自然の中の家から外にでることなく、白いドレスを着ながら詩作に人生を捧げたエミリー・ディキンソンの着ていたドレスをモチーフにした衣装と、そんな生き方にほのかな憧れを懐きつつ現実の中を生きる主人公の衣装をお願いしました。

演者さんにフィットするように丁寧にコミュニケーションを取っていただき、仕上がったものは映画の物語性を組みつつも、現代性を取り入れた作品でした。
現代はたしかに様々な服がとても安い値段で手に入る時代です。
でもそれは自分だけのための仕立て服を着ていた時代と比べて、本当に豊かになったのか。
そんなことを考えるきっかけにもなりました。

「この世に新しいものなどない。ただ、忘られたものがあるだけだ」
とはかつてマリー・アントワネットに仕えたクチュリエ、ローズ・ベルダンの言葉です。
わたしたちもかつてあった美しいものを忘れずに何かを作り届けていきたいと思うのです。





