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Between grief and nothing- 画家、黒坂麻衣さんのこと 〜発行人から見た「あなたのいない夕暮れに」メイキングその4〜


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by 高崎健司

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発行人が綴る世界の名詩を現代にあわせた新訳でお届けするボイスレター、「あなたのいない夕暮れに」のメイキング、第4回目は挿絵の作品提供いただいてる画家・黒坂麻衣さんについてです。


悲しみと無の間にあって、おれは悲しみを選ぼう -ウィリアム・フォークナー『野生の棕櫚』

黒坂麻衣さんの最後の作品
黒坂麻衣さんの作品

最初に断っておくと、僕は生前の彼女と直接話したわけではなく、またこの文章を書く目的も誰かを傷付けたりする意図ではありません。

しかし黒坂さんの作品は「あなたのいない夕暮れに」の構成要素として欠かせないものであり、ご家族から作品だけでも生き続けてくれるのは嬉しいという言葉をいただき、メイキングで紹介させていただきます。

黒坂麻衣さんは、1986年青森県生まれ、多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業の画家です。
その「人が泣く寸前の感情」を、自分の作品の中にそっと忍ばせる、イラストと絵の中間のような幻想的な絵で、2013ADC賞入選、2014JAGDA入選など広告業界を中心に高く評価され、2019年にご逝去されました。

このサイトがリニューアルする以前から商品に作品提供いただいていた黒坂さん。
彼女の作品に込められた、どうしようもない「悲しみ」のような風景が美しいと思っていて、今回の連載に推薦させていただいたところ作家の小谷さんからも、
「私も、絶『望』を大事に書いているので、
そして、それを誰にも押しつけないことも大切にしているので、
すごく通じるものがあります。」
という風に賛同いただき作品使用をお願いしました。

とつもなく繊細で、とてもなく不器用で、絵だけが救いだった普通の女の子。
自分の興味のある古典映画のことは延々と話すのに、女子グループのガールズトークになると途端に話せなくなる人。
グループよりも一対一で人と話すのが好きだった人。
自分自身と戦いながら、絵で、人の心を救いたいと、救えると信じていた人。

彼女と直接お話したことのあるスタッフや、ご遺族のお話聞きながら生前黒坂さんはそういう人だったという印象を受けました。

彼女が好きだったというフランスの映画監督のゴダールは、その作品『勝手にしやがれ』の中で、フォークナーの小説から「悲しみと無の間にあって、おれは悲しみを選ぼう」という言葉を引用しています。

彼女の作品を見て、悲しみと無であれば、悲しみを選んで生きようと、ただ、そう思うのです。

写真・文 高崎健司

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高崎健司

yori.so gallery & label代表。心の中にある繊細さを、誰かを傷つけるためではなく、誰かと関わるために使う生き方を助けるために、ギャラリーと出版レーベルを運営してます。

1983年、千葉県生まれ。2005年、国際基督教大学卒業後、ソフトバンク(株)入社、2009年に独立。2011年、non-standard world株式会社を起業。