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人は善と悪のキメラである - 発行人より新年のご挨拶


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by 高崎健司

昨年読んだ本のベストは?と聞かれたら、リチャード・ランガム著「善と悪のパラドックス」と答える。

人は善として生まれて、社会によって悪に染まるのか?
人は悪として生まれて、社会によってその悪を抑え込むことで善を保っているのか?

性善説、性悪説という形で昔から多くの哲学者を悩ませて来たこの問題について、ハーバード大学の教授が最新の進化研究、人類学の知見から説明したこの本。

人類の歴史において、性善説を信じるものが「悪たる権力者さえ追放すれば理想郷を築ける」と信じて革命を行おうとしては、悪い秩序でも無秩序よりましと思える凄惨な血を流し、性悪説を信じるものが社会秩序のために悪を処刑しようとしては、無実の人を魔女狩りのように追い込むなどの失敗を犯してきた。
性善説、性悪説どちらを信じるにせよ、人間の自然状態をどのようなものと捉えるかという問いは多くの争いを生み出してきた問題であるといえる。

本書の結論は、「人間は善と悪のキメラ(=併せ持った存在)である、ただし悪の部分は文化によって良い方向に使うことができる」というもの。

本書は暴力(悪)の種類を、反応的な暴力(=ついかっとなってふるった暴力)と計画的な暴力(=集団を守るために使われる暴力の)2種類に分けて以下のように論じる。
人間は前者の反応的な暴力をうまくコントロールできるように、自らを「家畜化」するように進化してきた、他の哺乳類と比べてもとても平和な生き物である。
(多くの人の直感と異なるかもしれないが、人間以外の多くの哺乳類も同種同士で殺し合う。)
ただし同様に計画的に目的もって使う暴力に関しても進化させて来た。
力でライオンにかなわない人間が、集団で身を寄せ合って身を身を守るため、また人間の集団内で暴力で権力を持とうとするものが力を持たないようにするための抑止力としての暴力を。
ただしその計画的に使う暴力は、文化によって抑止できると。

「愛は地球を救う」みたいなメッセージに多くの人が共感するのに、なぜ人は戦争をするのか?ということが疑問だった僕にとってすごく腑に落ちる説明だった。

昨年読んだ別の本には、様々な個別の悪いことはありつつも、歴史上世界全体の経済が縮小したことはないことをもって以下のような文章が書いてあった。

「朝起きたときに、世界を悪くしてやろうと起きる人はいない」

引き続き、心がざわつくようなニュースも、心が温まるようなニュースも日々同時並行でおきるような社会だが、そんな事実に僕は救われるのである。

今年もsensitive & effectualという、自分たちが作ろうとしている文化創造に邁進してまいりますので、yori.so gallery & labelをどうぞ宜しくお願いします。
そしてこの場所を訪れてくださる方にとっても実りの多い一年になりますことをお祈り申し上げます。

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高崎健司

yori.so gallery & label代表。心の中にある繊細さを、誰かを傷つけるためではなく、誰かと関わるために使う生き方を助けるために、ギャラリーと出版レーベルを運営してます。

1983年、千葉県生まれ。2005年、国際基督教大学卒業後、ソフトバンク(株)入社、2009年に独立。2011年、non-standard world株式会社を起業。