それぞれの光〜ノンスタカフェのお客さま

特集|それぞれの光〜ノンスタカフェのお客さま 第2回 宮澤美穂さん『人を好きになる沸点が低い』

言葉は交わしていないけれど、「雰囲気が好き」「仲良くなってみたい」という人に出会う経験というのは、きっと誰にでもあるだろう。たとえば、オフィスですれ違う別の部署の人とか、はじめて申し込んだワークショップの参加者とか、幼稚園でみかける誰かのお母さんとか。ただ、その勘のようなものが働いたところで、何もしない人がほとんどだと思う。宮澤美穂さんは、そんな勘が働いたとき、これまでいくつもの大胆な行動を取ってきた人だ。

たとえば、中学校のテニス部で他校と試合をしたときのこと。宮澤さんいわく「ものすっごくかわいい子」がいて友達になりたいと思い、たまたま従姉妹と同じ中学校の生徒だとわかると、従姉妹に頼んで紹介してもらい、文通をした。最近では、ワタリウム美術館に一人で行ったときのこと、とてもおしゃれでかわいい人を見つけ、「Twitterでフォローさせてください」と声をかけた。

「知らない人に話しかけるのが好き」という宮澤さんは、ノンスタカフェでも自然と他のお客さまと仲良くなっていた。私たちの会社のイベントの参加回数が一番多いだけでなく、人を惹きつける人懐っこさがあるからだろうか、きっと他のお客さまの記憶にも残っている人物だろうと思う。

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猫さえいれば、一日中外に出なくても幸せ

宮澤さんは普段は、一般企業で働く会社員だ。しかしTwitterやFacebookを覗いてみると、土日はもちろん平日もいろいろなライブ、美術館、イベントに足を運んでいて、エネルギー溢れる行動力に驚いてしまう。アートに興味をもったのは、中学生の美術室のポスターでみた、アンドリュー・ワイエスが描いた一枚の絵がきっかけだったという。彼の作品を追いかけていくうちに、美術館巡りが好きになる。大学時代に入った映画サークルで、さらにその世界は広がることに。これまで知らなかった音楽や映画の情報を仲間から教えてもらい、生まれ育った長野県ではなかなか行くことができなかった、ライブやイベントや展示会に足を運び、どんどんアートの世界にはまっていった。

こんなにもいろいろな場所に行っているので「フットワークが軽いんですね」と聞いたところ、正反対の答えが返ってきた。「こうみえて実は私、一日中家の中で過ごせる性格なんです」。宮澤さんは小学生の頃から、家ではずっと猫を飼っている。インタビューの前にメールで質問を投げかけた「人生の相棒」とはなにか、という答えは「猫」だった。「猫さえいれば、一日中外に出なくても幸せなんです」と話す宮澤さんの耳にはかわいらしい猫のイヤリングが。写真が入れられた封筒にも猫。そういえば、下を向いたときの表情も猫っぽい。

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漫画の世界みたいな青春なんて嘘だって思いました

猫は癒しの存在でもあり、支えてくれる存在だったという。それは高校生のときもそうだった。進学校に入学した宮澤さんは、中学校の頃とは違う「勉強一筋」の真面目な雰囲気に馴染めなかったときのことを教えてくれた。中学とはがらりと変わった周囲の様子に戸惑い、心を閉ざすようになった。学校が終わるとまっすぐ家に帰るような生活。校則には制服がなかったため、母親のおさがりをきていた宮澤さんは周囲から浮いていたと自ら振り返る。「高校時代は孤独でしたね。漫画の世界みたいな青春なんて嘘だって思いました。」

しかし卒業後の高校の同窓会で知り合った、当時は別のグループだった友人とは波長が合うことがわかり、今では大好きな仲間だという。大学の映画サークルの仲間との居心地良さも忘れられず、一旦長野で就職したものの、「友達と離れるのが淋しい」という気持ちから1年で東京に戻り就職することに。仕事に関しては、もっと能動的に働けるような仕事をしてみたいという気持ちがあるが、知り合った友達とライブや美術館などに行くことがストレス発散にもなり、今はとても楽しいという。「ほんとに楽しくて、大好きなんです。」宮澤さんは何度も、中学、高校、大学、職場の友人たちのことをそう話してくれた。

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人を好きになる沸点が低い

人が好きという気持ち、人を好きになる気持ち。この両方に熱を帯びている。愛しそうに、大切そうに、自分の友人たちへの想いを話す姿は、それ自体一つの才能のように見えた。隣で撮影担当をしていた高崎が、上手い表現でこう言った。(インタビューアーの私としては、一本取られたという感じだったが。)「宮澤さんは、人を好きになる沸点が低いんでしょうね。」

「仲良くなりたい」「雰囲気が好き」と勘が働く、その沸点が人よりも低い。その才能は、大学時代の新歓コンパのために、新入生を集めるときはここぞとばかり発揮され、「めちゃめちゃ声をかけちゃいました」と笑って教えてくれた。なぜそこまで知らない人に話しかけることが好きなのかを聞いてみると、「田舎っぽいんだと思いますよ。いろんな意味でミーハーなんだと思います。」とまたしても明るく笑いながら宮澤さんは答える。

きっと人を好きになるだけでなく、人からも好かれているからこそ、また人を好きになるんじゃないかと思う。それは田舎っぽいとか、ミーハーとか、そういう言葉ではなく、もっと美しくて強い宮澤さんだけがもっている、光のように見えた。

もしこの先、どこかで、「仲良くなりたい」「雰囲気が好き」という人に出会って、自分の心の中にフツフツと小さな泡が上がるのを感じたら。その時は、その熱を冷ます前に動いてみようかなと思う。沸騰間近のお湯で淹れたお茶のほうが、沸騰を過ぎた生ぬるいお湯で淹れたお茶より、何倍もおいしい。そうやって人生を美味しく味わってみたくなってきた。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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