それぞれの光〜ノンスタカフェのお客さま

特集|それぞれの光〜ノンスタカフェのお客さま 第1回 高橋侑子さん『人付き合いが得意ではない自分を知りたい』

声がとても澄んでいる。

高橋侑子さんを目の前にすると、軽やかな声に耳を奪われ、ついつい言葉を置いてきぼりにしそうになる。2回目にノンスタカフェに来たときも、そうだった。

「私、ずっと自分にコンプレックスあったんで。」

さらりと、澄んだ軽やかな声で、たしかそう言った。言葉の重さと、声の軽さにあまりにもギャップがあって、数秒してからでないと、私の頭の中には入ってこなかったことを覚えている。頭に入ってきたときは、もうその言葉について何かを返すには、タイミングを逃してしまっていた。

いつか、聞こう。その後も、何度かノンスタカフェに顔を出してくれるようになり、言葉を交わした。相変わらず、声は澄んでいて、軽やかな声に耳は奪われていた。

そしてようやく、その「いつか」がやってきた。

IMG_0865

人付き合いが得意ではない自分を知りたい

高橋さんは、乳児院で保育士の仕事をしている。乳児院とは、何らかの事情で家庭で生活できない子どもたちが生活している施設だ。子どもの年齢は、新生児から2〜3歳児。自分の担当の子どもを一人か二人受け持ちながら、子どもたちのお世話をする。担当の子どもはまだ話せない赤ちゃんだとしても、高橋さんを見つけると、しっかりと甘えてくるそうだ。そういった一対一の子どもと関わりながら働くことに楽しさを感じているという。

しかし乳児院での仕事は楽しいことばかりではない。業務内容を聞くと、たった一人の息子相手にヒーヒー言っている自分が恥ずかしくなってしまう。たとえば、ひとりで20人もの乳児と幼児をお昼寝させるなんて、どうやったらできるんだろう。ストレスが溜まらないのか、聞いてみると「すぐイライラしちゃいますよ。私も同じです。」と爽やかな笑顔と一緒に一冊の本を見せてくれた。『怒りのコントロール』。本の中には、怒りは自分で選んでいる、といった客観的な分析が並ぶ。ただイライラするだけでなく、その感情と冷静に向き合う姿は、高橋さんが纏っている軽やかな空気がどこからやってくるかを教えてくれているような気がした。

IMG_0836

乳児院という施設で働くことを決めたのも、過去の自分と冷静に向き合おうとした結果、導きだされた道のようだ。高校生のとき、たまたま「発達障害」という言葉を知ることに。その言葉が引っかかったのは、小学生の頃から人付き合いが得意ではない自分が、どうしてこういう性格に育ったのだろうか、人とどういう関わりをしたら自分のようになるのか、知りたいという気持ちがあった。大学は子どものことを学べる学校へ進学。就職活動をしている中、たまたま障害児の通園施設(療育センター)の求人を見つけ働き始めると、そこでの子どもと個別的に関わる経験を通して、一対一でじっくりと子どもと関われる仕事がしたいと思い、乳児院に辿り着いた。

自分の弱い部分と向き合うことは、傷口に塩を塗るような痛さがある。できれば目を背けたいし、どうしても感情的になってしまい、客観的に見つめることが難しい。しかし、高橋さんはそこから逃げていないから、初対面の相手にもさらりと「自分にコンプレックスがあった」と言えるのではないかと、ノンスタカフェでの出会いを思い返した。

大学時代に味わった、友人関係の失敗

インタビューでも過去の自分について、清々しく話をしてくれた。その一つに、大学時代に味わった、友人関係の失敗談がある。中学生から大学生の頃は、自分に対するコンプレックスが特に強かったという。「他の人がうまくいっているように見えて、なんで自分はこうなんだろう。なんだろうこの違和感は、って思ってました。」面白くないのに笑わなくてはいけない同調圧力、自然と出来上がる友だちのグループ。そんな中、高橋さんは違和感をもちながら我慢してまで友だちでいる必要がない、という気持ちをもつようになっていた。大学に入ると、知り合い始めの友人との間に居心地の悪さを感じ、「一緒にいるのをやめよう」と友だちと話し合い、大学では孤立していた時期があった。ところが、高橋さんいわく「ぐいぐいひっぱってくれるおせっかいな子」が自分の友だちの輪に入れようとしてくれた。友だち関係で失敗したあとで、どうにかしたいという気持ちもあり、今度は一緒にいれるような関係性を自分からつくっていこうと気持ちを切り替えた。

人と関わるとき、自分から相手に入っていこうという気持ちをもつことが大切だと感じた姿や、大勢の友だちとワイワイ過ごすよりも、一対一で関わるほうが好きだという高橋さんは、どこか私自身と重なり、「その気持ち、すごくわかります」とインタビューの中で何回言っただろう。自分の弱い部分が、相手の中にも見えたとき、それは弱さではなくなり、あるがままの自分であって、嫌いにならなくてもいいんだと思えてくる。 何か失敗があったとき、ずるずると引きずってしまうという部分も私と同じで、似ている要素の多さにお互いに笑ってしまった。ただ、高橋さんの失敗の乗りこえ方は少し違った。そこには、「音楽」があるという。

IMG_0868

お気に入りの一曲があるわけではなく「音楽」というものが好き

インタビューをする前に高橋さんへ送ったメールで、当日に「人生の相棒」と言えるものを用意してほしいと頼んだ。その答えが「音楽」であり、苦しいときに力になる存在でもあるという。「幼い頃から音楽を聞くと踊りだしてしまうほど、音楽が大好きだったんです。」小学校2年生から社会人になるまでは、ピアノを習っていた。聞いたり、弾いたり、歌ったり、自分のまわりにずっとあるのは音楽だと高橋さんは振り返る。仕事で失敗したときは、気持ちを発散するために歌うこともある。聞く音楽は、気持ちによっていつも違う。これといったお気に入りの一曲があるわけではなく、「音楽」というものが好きなんだと話す。どこか高橋さんの声に、歌声に似た心地良さがあることに、妙に納得してしまった。

インタビューを終えたあと、駅の近くに流れる川辺の並木道で写真を撮らせてもらった。9月に入ったばかりのその日は、背伸びをしたくなるような青空が広がり、爽やかな風が吹く気持ちの良い日だった。爽やかな秋の風には、夏のような湿っぽさがない。この風は高橋さんらしいなと、カメラに笑顔を向ける姿を見ながら、ふと思った。自分の湿っぽさと一つずつ向き合っていけば、いつか軽やかな風になれるのかもしれない。そして、自分の恥ずかしい部分も、嫌いな部分も、人にさらりと言えるようになったら、濁ってた感情は今よりきっと澄んでいくんだろう。

IMG_0876

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocket
  • Lineで送る

記事への感想を送る

いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

お名前 (必須)

メールアドレス (必須)

メッセージ

このフィールドは空のままにしてください。