大浦麻衣の「今日も人が好き」

連載「今日も人が好き」no.6|一番遠い記憶のこと

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最近、父や母が生きてきた時代のことが気になります。汽車に乗ると鼻の穴の中が黒くなること、修学旅行はお寺で雑魚寝をすること、電話は米屋に借りにいっていたこと。それは自分が絶対に味わったことのない、想像し難い感覚。もはや小説や映画の世界のような、その時代に生きた人の記憶にしか残っていないようなものは、どうなっていくんだろうと。

きっかけは、たまたま父と母の両方から、今までの人生の中で一番遠い記憶の話を聞いたことでした。それはなんでもない会話でポロっとこぼれたような話。

母とは、旅行で行った先の露天風呂につかりながら。息子を預け、のんびり入れた久しぶりの温泉。気が抜けてぼんやりし過ぎていたため、何の話からそうなったのか記憶が定かではないのですが、船乗りのセイ叔父さんの話でした。

「長い船旅から帰ってくると、家族を船に呼んで盛大なパーティがあるのよ。小学校上がる前の春休みかな。おばあちゃんに連れられて行ったんだけど、も~う恥ずかしくって!!そのとき初めてコーラ飲んだのよ。オエーって感じだった~(笑)」

たしかセイ叔父さんは沖縄出身で、私の祖母の妹の夫であり、大きな船に乗って世界中を周っていた、という話はこれまで断片的に聞いた母からの話。コーラの話も今まで聞いたことがあったような、なかったような。ただその時、母がどんなことを思ったかは初耳でした。なぜ恥ずかしかったかと聞くと「男の人ばっかりだったからよ」と一言。船の中のパーティがどんなに綺羅びやかだったのか、そしてその恥ずかしさはどんな感覚なのか、わからないながらも、強烈な出来事であったことは伝わってきます。

父とは、夫と三人でお酒を飲んでいたときのこと。いつからか、父はお酒を飲むと決まって昔話を聞かせてくれるようになったのですが、それがあまりにも現実離れしていて面白く、今回もふんふんと聞き出していると、父のお父さんの話になりました。

「二歳だったと思う。家の前で敬礼して『行って参ります!』って出て行ったんだよ。」

それは戦地に旅立つ日の父親の姿とのこと。二歳とは、今の私の息子の年齢。想像しただけでも胸が張り裂けそうで、四杯目のワインのせいもあり、私は必死に涙を拭いて平然を装っていました。

ところで、私の中で一番古い記憶はというと、残念ながら「よくわからない」です。幼稚園の年少の記憶がちらほら残っているだけで、どれが一番古いかはわからないのです。毎日の登園時に門で母と別れるときに、溢れてくる涙を隠すために、絶対に振り返らずに走って教室まで行ったこと。餅つき大会のとき、人前で餅をつく行為がどうしても恥ずかしくて仮病を使って保健室で休んでいたこと。幼稚園の隣の公園でブランコに乗っていたとき、誰かの頭を殴ってしまって怖くて逃げたこと。とまあ、根暗な私らしい負の記憶ばかりなんですが(笑)、これが一番古い!と言い切ることができるような記憶はありません。

もし目の前にいる息子の記憶に、いまの私の言葉や行動がしっかりとインプットされるとしたら、その責任の重さに押し潰されそうになるのと同時に、いつか何が記憶に残っているのか、教えてもらう日が楽しみでもあります。きっと父と母の時代より、記録に残せるツールが増えた分、残っていくものは多いのでしょうが、恥ずかしかった、悲しかった、気まずかった、そういう人の記憶というのは、やっぱりそれぞれの心の中にしか残らないものだと思います。だから、私はいつか息子に伝えていきたい、そして今は父と母から聞き出さねば!と思うのです。

それにしても、温泉とお酒の力は恐るべし。伊豆への社員旅行というのは、理にかなったものなのではと、消えつつある日本の文化に(私には関係ないのですが)、いま妙に納得しています。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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