わたしの大切

特集|わたしの大切「お店は『人』」〜卵と乳製品を使わないお菓子 カナム〜

とても真面目そうなのに、なんだか楽しそう。それは「khanam(カナム)」というお菓子屋さんを知れば知るほど思うこと。

今年の7月で3周年をむかえたカナムは、西荻窪の駅から南にのびる大通りから少し小道に入ったところにひっそりお店を構えている。引き戸を開けて入ると、ガラスケースの中に、スコーン、マフィン、ベーグルが並び、ケースの上にはクッキー、ビスコッティ、グラノーラが所狭しと並ぶ。春は苺ジャムマフィン、夏は桃の豆乳プリンと行く度にその季節限定のお菓子も並び、目移りしてばかりでなにを買うかいつもなかなか決まらない。

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卵と乳製品を使っていないお菓子というと、ちょっと口さみしいイメージがあったが、カナムのお菓子はちゃんと甘くて、しっかりと甘党の心を満たしてくれる。手渡されたお菓子には素材に関する説明書きの紙が添えられている。

1.卵、乳製品、白砂糖、動物性食品は使いません。
2.できるだけ農薬、化学肥料を使わずに育てた食品を使います。
3.できるだけ放射能に汚染されていない食品を使います。…etc.

ブログを覗けば、食の安全について詳細なレポートも綴られている。と、その横で「ライブイベント開催します!」と楽しげな告知も。カナムは主催者として、ミュージシャンを呼びライブイベントを企画・運営している。イベントの会場は、西荻窪の多種多様なカフェだ。ただ必ずしもカナムと同じベジ思考なお店というわけではない。

「うちはこだわりがあることをちゃんと発信して、こだわっているけど他のところを否定するんじゃなくて、一緒にやっていくのがいいんじゃないかなと思って。たぶんその方が自然とみんなに広まりやすいんじゃないかなと思います。」お菓子作りとイベントという2つの軸は相反するものと捉えられるかもしれないことについて、カナムを営む石橋理さんと石橋加奈さんはそう話す。

「否定しないこと」の先には何があるのか。街の小さなお菓子屋さんは、どうやらその答えを知っているようだ。

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自分で自分のお店をやるのも楽しいだろうな

理さんは、幼い頃から喘息とアトピーを患っていたため、家では健康に気を遣った食事だったという。「カップラーメンはだめだとか、いいものとわるいものがあるというのは小さい頃からなんとなく刷り込まれていました。」

高校生の頃にギターを始め、大学生ではバンドを組んで音楽の世界に。大学卒業後に一度就職するものの、長く続けることはないだろうと半年で見切りをつけると、楽器屋でアルバイトをしながら音楽活動を続けていた。20代後半からは無印良品でアルバイトを始め、2年後には社員となり徐々にお店のマネジメントも任されるようになる。その頃から漠然と自分のお店をもちたいという気持ちが湧き上がってきていた。

「会社に属してお店をやるのも楽しいけど、自分で自分のお店をやるのも楽しいだろうなと思って。なにかを売りたいってわけではなく、カフェとかで自分の好きな音楽を流せたらいいなって思っていました。」

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母の一言が嬉しくて続けてきた

加奈さんは愛知県で生まれ育った。お菓子作りをする母親の影響を受け、小学生の頃からお菓子作りを始めた。「母はすごく褒める人で、はじめてクッキーを作ったとき、試食してみたら粉っぽくてまずかったんですけど、母は『美味しいよ〜』って食べてくれて、それが嬉しくて続けてきたんだと思います。」

高校卒業の時期になると、世の中はカフェブーム。加奈さんもカフェの空間に惹かれ、いつか自分もこういうことをやりたいと漠然と思っていた。大学時代は、アルバイトや就職活動で不規則な生活が続き、一旦おさまっていたアトピーが出てくるように。そこでアトピーに関して調べてみると、卵や乳製品を除いた野菜中心の食事が良いことを知る。ベジ思考のカフェに足を運び情報を集め、お菓子作りもバターや白砂糖たっぷりのものから、徐々に植物性のお菓子へとシフトしていった。

いつかお店を開きたいという思いをもちながら就職先として選んだのは、Meal MUJIというカフェ事業をもつ無印良品だった。「将来お店を開くにもノウハウをわかったほうがいいかなと思って、働くことにしました。」そして配属された店舗で理さんと出会った。

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なぜか自信がありました

一人暮らしをしてから野菜中心の食事にかえた結果、加奈さんの体調は良くなってきたという。そして働きながらも、卵と乳製品を使わず安全な素材を使ったお菓子を作っていた。試食係の理さんは「いける」と思ったという。「良い素材を使ったほうがおいしいって実感してあったし、僕にはなぜか自信がありました。」

いつかお店をもつという夢が、二人の中でただの夢ではなくなってきていた頃、加奈さんは当時よく通っていたカフェから、二号店を出すのでオープニングスタッフとして参加しないかという誘いが受ける。そして勤めていた会社を退職し、お店のメニュー考案から携わることに。しかし働き始めてから1年ほど経ったとき、体調を崩してしまった。お店に立つことが難しくなり、しばらく休むことに。ちょうどその時、理さんはお店の開業資金を貯めるために、転職を考え無印良品を退職していた。

気がつけば二人とも休んでいる状態。加奈さんの体調は回復し、お店に戻るという選択肢もあったが、このタイミングだと思った。「二人とも仕事をしていないし、始めちゃったらいいんじゃないかって。このタイミングでやりたいとお店に話したら応援してくれたので、そこで『よし!』って思いました。」

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毎日の食事のように身体にやさしいお菓子をつくる

お店を開くことを決めてからオープンするまではわずか半年の期間。ただ始めの3ヶ月間は物件が見つからず身動きの取れない状態だった。毎日不動産屋さんに通い、ネットで探す日々。その間、二人とも無職。もう一度働いたほうがいいのではと諦めかけていたとき、今の物件に出会う。

「最後のチャンスみたいでした。不動産屋さんの植木鉢の後ろに隠れているような物件で(笑)。物件を探していく中で、資金的にカフェは難しくて、小さいところでテイクアウトするのが良いということがわかってきて。どのくらいの広さと家賃かは決まっていたので、まさにその物件はぴったりでした。」

コンセプトは、卵と乳製品を使わないお菓子。イメージしたのは、近所の人がおやつ感覚で買うようなお菓子屋さんだ。お店の名前は、タイ語で「焼き菓子」という意味の「khanom(カノム)」と、ヒンドゥー語で「食事・ごはん」という意味の「khana(カナ)」を合わせた「khanam」と名に。毎日の食事のように身体にやさしいお菓子をつくるという想いを込めた。

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西荻窪に来てくれる人が増えたらいいな

開店してから数ヶ月経った頃、食材の仕入先の自然食品店が主催するイベントへの誘いを受け、はじめて自店舗以外の場所で販売をする。「お店も大事だけど、イベントに参加すると普段遠くてなかなか来れなかったと言うお客さまがいたりして広がるので、イベントっていいなと思いました。」

出店するイベントの中にはライブイベントもあった。もともと理さんが音楽が好きなこともあり、自分たちのお店をもったらライブイベントをやりたいという話もしていた。そこで、1年前からは、自分たちで西荻窪に好きなアーティストを呼んだライブイベントの企画を始める。場所は、お店を開くようになってから仲良くなった西荻窪のカフェだ。

「自分たちの好きなミュージシャンを、西荻窪に住む人に広めたい」という気持ちと、「自分たちの好きなお店を、ミュージシャンのファンの人に広めたい」という両方の気持ちがある。「ライブイベントがきっかけでそのお店のごはんを食べておいしいと感じてもらって、また西荻窪に来てくれる人が増えたらいいなと思ってます。」

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自然と仕事をする

ライブイベントでは、カナムのお菓子をデザートやお土産として出すことで、きちんとお菓子屋さんとしての仕事もしている。経営の観点から見れば、 季節によって売上の変動がある中、 テイクアウト販売の一本に絞るより、イベントの収入があれば支えになる。ただどこか違うのは「人との繋がり」で生まれてきた仕事だということ。

「きっとどのお店も経営のことは考えていて、コラボしたら良くなるんじゃないかって思っているんですけど、最初にそれありきではないんです。自然と仕事をする。店同士が紹介し合って、仲良くなっていって、自然と仕事の話になっていく。仲良くしている人と仕事をすれば長続きするし楽しいし、お客さんにも絶対伝わっています。」お店のマネジメントも担当する理さんはそう振り返る。

西荻窪というまちでお店を開いてわかったことは、お店同士の繋がり。たとえ競合となる同じお菓子屋さん同士でも紹介しあう、まるで助け合い運動のようなものがあると二人は笑いながら教えてくれた。「お店同士が仲良くできるって素晴らしいなって。結局は人なんですよね。お店は人なんだろうと思います。」そう話す理さんの言葉に頷きながら、加奈さんも「ミュージシャンの人とか、場所を提供してくれる人とか、みんなと繋がれていることが大きいです。」とこの3年間を振り返る。

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自分たちが好きなことをそのままに

二人の口からは何度も「人との繋がり」という言葉が出てきた。そして最近気がついたことがあるという。「お菓子屋さんがライブイベントするなんて、とか、素材へのこだわりかたが違うお店でイベントをするのってどうなのか、って自分の中で矛盾があるのかなと思ってたんですけど、やってみるとそれでいいのかなって。うちはこだわりがあることはちゃんと発信して、 こだわっているけど他のところを否定するんじゃなくて、一緒にやっていくのがいいんじゃないかなと思います。」

イベントを開催するお店が、古民家カフェだったり、音楽喫茶だったり、カレー屋さんだったりするのは、そういう理由からだ。そうすれば、普段は素材に気を使っていない人にも、お菓子を届けることができ、美味しさを知ってもらえる可能性が広がる。「気付いたのはどちらも好きでやっているんだろうなということです。自分たちが好きなことをそのままやっていくのがいいのかなと思うようになりました。」

カナムのお菓子に素材そのままのおいしさがあるように、カナムというお菓子屋さんを営む理さんと加奈さんが歩んでいく道にも、嘘のないそのままの「好き」と「楽しい」がいつも必ずある。

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理さんと加奈さんに教えてもらった「否定しないこと」のもつ可能性は、きっと真面目に楽しく人と繋がることなんじゃないかと思えてくる。

自分の考え方や信じているものと、もし反対にあるもの、もしくは少しずれているものと出会ったとき、すぐに否定しそうになる自分がいる。でももし否定しなかったら。受け入れることができなくても「否定をしない」ということができたならば。そこには誰かと繋がる道筋が見えてくるのかもしれない。

<khanam(カナム) 卵と乳製品を使わないお菓子>
住所:東京都杉並区松庵3-38-20 KURA尾崎 
電話:03-5930-1837
HP:http://khanam.petit.cc/

撮影協力:Re:gendo

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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