わたしの大切

特集|わたしの大切 第1回「自然になりたい」〜食とセラピー・ていねいに、〜

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お店の名前は「ていねいに、」。
おや、と思う。「、」の後ろに続くものはなんだろう。

西荻窪の駅から8分ほど歩いたところに、今年の4月末、「ていねいに、」という少し変わった名前のカフェがオープンした。 壁の黒板には、ごはんのメニューと共に「ちょこっとマッサージ500円」という文字が並ぶ。

お店に入るには、靴を脱ぐ。朝、ごはんを食べるにも、昼、珈琲を飲むにも、このカフェでは靴を脱ぐ。日本人特有のものなのだろうか、朝でも昼でも靴を脱ぐというのは、身体も心も少し緩むような気がする。

ゆったりとした椅子が並ぶカウンター席と、奥には丸や四角の小さなちゃぶ台が並ぶ座敷。1時間ごとに時を知らせるボンボン時計の音が心地良い。朝、昼、夜、平日、休日。それぞれの時間帯でお店に立つ人が変わったり、でてくるごはんも異なる。ただどれをとってもその名のとおり「ていねいに、」作られたものたち。身体にすーっと染みこんでいく。

カフェスペースの扉の奥には、マッサージの施術室がある。そこでは、鍼灸指圧マッサージ、びわの葉温灸、ゆるタイマッサージ、リフレクソロジーといったセラピーを受けることができる。

「ていねいに、」のあとにはこんな言葉が続く。

ていねいに、ごはんをつくる。ていねいに、からだに触れる。ていねいに、人と接する。ていねいに、暮らしていく。

このお店を営む、福田倫和さんとcayocoさんは、自分たちがそうありたいという想いも込めて、この名前をつけたと話す。

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日常の大切な場所

福田さんは、西荻窪生まれの西荻窪育ち。大学卒業後に会社員として2年間働くものの、一生やる仕事ではないと感じ、何をするか探していた中、ピンときたのが東洋医学だった。鍼灸学校へ入って東洋医学を学んでいくうちに、鍼や薬の力を借りる前のことが大切だと知った。そんな中、健康をテーマにした宿泊施設、穂高養生園と出会い、2006年から6年間、そこでスタッフとして働くことに。訪れてくる人は病気の療養も含め「非日常」を求めてくる。

「非日常をもつのも大切だけど、そもそも日常を忘れてリラックス、デトックスするより、そうなる前に溜め込まないほうがいいなと思って。もっと日常に近いところにいたいと思ったんですね。」

生まれ育った西荻窪というまちの良さも思い出し、東京に戻りお店を開くことを決める。それは「日常の大切な場所」になるようなお店。何ヶ月も前から予約を取るような特別な場所ではなくて、仕事が早く終わった日に行こうと思うような場所。さくっと寄れるけど、300円の牛丼で胃を満たすのではなく、大切と思えるような場所。

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いつかごはんとセラピーをくっつけたお店をやりたい

cayocoさんは、愛知県出身。セラピーを勉強することになったきっかけは、ある病気を患ったことだった。「病気になったとき、なんで病気になったのかをすごく考えて、探りたいなと思ってたんです。」そのとき東洋医学に出会い、3年という年月をかけて病気を克服してからは、マッサージを勉強したいと思い上京する。勉強をする中、マッサージだけでもだめだ感じ、だんだんと食に興味が湧いてきた。卒業後の進路を考えたとき、もともと親戚が営む民宿の近くにあった穂高養生園のことを思い出し、体験スタッフとして2ヶ月ほど働く。このとき福田さんと出会った。

福田さんは、スタッフが日替わりで作るまかないの中で、cayocoさんのごはんが特においしかったという。 しかし当時はまさか一緒にお店をやるとは思っていなかったと二人は笑って話す。cayocoさんは穂高養生園での体験スタッフの経験を経たあと、マッサージサロンで働き始めた。「いつかごはんとセラピーをくっつけたお店をやろうと思っていました。珈琲店とマッサージくらいなら自分でできるかなと思って。」そんな想いをもちながら、コーヒーショップやカフェでも働いていた。

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セラピーとごはんという軸

生まれ育った西荻窪のまちに戻り、お店を開くことを決めた福田さんは、セラピーという軸は決まっていた。もう一つの軸を考えたとき、気軽に寄ってもらうためには「ごはん」がいいと思った。「特に一人暮らしの人が自宅と会社の往復以外に寄れる場所があるといいなと思って。健康を考えると食事が大切なことは間違いないですしね。」

そこで声をかけたのがcayocoさんだった。お店の話をもちかけられたcayocoさんは、はじめは戸惑いがあった。「これまでごはんを大量に作ったことないので、はじめはできないって言ったんですけど、福田さんに軽く『大丈夫だよ〜!』って言われて(笑)。マッサージも食事も形は違うけど、お客さんにホッとしてもらえるなら、それでいいかなと思いました。」

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続けるか辞めるかの間の道

二人でお店を始めることが決まると、それぞれ「これだけは絶対にやりたい」というものがあった。福田さんはワークショップの場所を提供すること。cayocoさんは朝ごはん。

福田さんはワークショップスペースをやりたかった理由をこう話す。「穂高養生園を訪れる人や自分の周りにも、仕事を辞めたいという人が多く、続けるか辞めるかの二者択一ではなくて、会社以外にもう一つの場所があればいいなと感じていて。仕事を続けながらも、興味があることを何かする、最初の一歩として使ってほしいと思いました。続けるか辞めるかの間の道があるんじゃないかなって。」

会社員時代は、自分のやったことに対してお金をもらうという感覚がなかった。お金が単なる数字になってしまうのではなく、例えばごはんを作って1000円もらう、といった体験をすることで、何かが変わるのではないか、という想いがある。きっとそこには顔の見える相手からの「ありがとう」があるはず、と。

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朝の時間を大事にしてほしい

カフェといえばランチ、と普通ならば考えてしまうところ、絶対に朝ごはんをやりたいとcayocoさんが思ったのは、朝の時間を大事にしてほしいという想いがあったからだ。早起きをしておいしいごはんを食べて一日がスタートしたときの、気持ちのゆとり。朝ごはんを食べる時間を削ってぎりぎりまで寝ていた日とは、気持ちが大きく違う。cayocoさんはモーニングが盛んな名古屋で育ったこともあり、東京にはその習慣がないことを知り、広めたいという気持ちもあった。「出勤前にちょっとでも時間をつくって、ゆとりをもちたいという人がきてくれると嬉しいです。」

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朝ごはんと夜ごはん、セラピー、ワークショップのスペース貸し。それ以外の時間も全て自分たちでやろうという気持ちはもともとなかったという。そこで自分たちが「いいな」と思う人に声をかけていくことに。

お店のオープン前、コミュニティカフェを夜だけ借りて営業していた時の仕入れ先だった脇町珈琲さんは平日の昼間。穂高養生園で知り合ったkonazukiさんは、週に1度お店にきてオーガニックスイーツを作り常時販売している。素材にこだわった玄米菜食のごはんを提供する土曜日の休日ダイヤさんも穂高養生園で出会った。在来種の野菜を使った子どもも安心して食べれるカレーを提供する日曜日のnon-table HOMEは、西荻窪でお店を開く友人の紹介だ。いろいろな人が関わり繋がって「ていねいに、」という一つのお店が生きている。

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オンとオフを切り替えるのはもったいない

お店がオープンしてから約2ヶ月。振り返るとあっという間に1~2年くらい経ってしまったんじゃないかと感じるほど、濃い時間だったという。ただ大変とは思っていないと二人とも口を揃えていう。

「休みをほしいとは思わないですね。仕事とそれ以外の境界線はあまりないと思います。オンとオフを切り替えたくないというか。仕事=普段の自分とは違う、その代わりにお金がもらえる、って切り替えちゃうのはもったいないなって。」そう話す福田さんを見ながら「ずっとフラットなままですよね」と笑うcayocoさん。「私もエネルギーは使うけど、力を入れていないというか、構えていないというか。自然になりたいですね。ふつうの事を自然に出来ている自然さ。草木が根をはり、雨をうけて成長して葉をつけ、太陽を浴び花が咲いて実になっていくように、私も日々の流れに身を任せて自然に生きていきたいと思っています。」

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二人の話を聞いていたら、なんだか頭も身体も緩んできた。どこか力が入り過ぎていたのかな、なんて考えてしまう。何かに向かって頑張ったり、耐えたり、奮起することもきっと大事。でも仕事も暮らしも、もう少し肩の力を抜いて過ごすしたら、それはとても気持ちが良さそうだ。

「ていねいに、」。その言葉の先に続くものは、私だったらなんだろう。頭も身体も緩んできたら「、」の後ろに続くものを探したくなってきた。

<食とセラピー ていねいに、>
住所:東京都杉並区西荻南1–18–11
電話:090–3452–3354
HP:http://www.teineini.com/index.html

<お知らせ>
7月27日(土)のノンスタカフェ第15回「ブックトレード・カフェ」は、ていねいに、さんのスペースをお借りして開催します。予約は26日(金)まで受け付けていますので、みなさまのお越しをお待ちしています!

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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