ドキュメント“ものをつくるということ”

ドキュメント“ものをつくるということ”|作家・小谷ふみ vol.1「思い出せなくなってしまうのが怖かった」

忘れることと、思い出さないことは、違う。
携帯片手に四六時中、簡単に写真も音声も残せる時代。それでも人は、毎日の出来事を頭に記憶できるわけではない。

「過去の出来事って、忘れるつもりはなくても、思い出さずにどんどん消えていくもの。」
やがて森になる』の著者である小谷ふみさんは、「忘れる」と「思い出さない」という言葉をていねいに使い分けてそう話す。

どんなに便利になろうと、写真や音に残せない何かが日常にはある。小谷さんが書き続けているその「なにか」は、時に優しく、時に強く、時に可笑しく、読み手の心の中を波立たせる。静かでいて力強い、その波をつくる風はどこから吹いてくるのか、小谷さんは美しい言葉を織り交ぜながら話してくれた。

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子どものことを思い出せなくなってしまうのが怖かった

小谷さんは東京都西国分寺生まれの西国分寺育ち。小学生の頃の通学路に、蔦の絡まった不思議な雰囲気をもった一軒の家が建っていた。毎朝その家の前を通る時、どこかそそられるものがあった。数十年後、自分がその場所で本をつくることになるとは想像もしていなかった頃の話だ。

西国分寺というまちは、結婚を機に一度離れることに。やがて子どもが生まれ、慌ただしい子育ての毎日に追われ始めた。そんな中、子どもの成長を書き留めるために育児日記をつけはじめた。ものを書くきっかけは、好きだからといって没頭して書き始めたというより、「子どものことを思い出せなくなってしまうのが怖かった」という想いからのスタートだった。

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当時はインターネットが普及し始めた時代。独学でホームページをつくり、子どもの写真とその日の様子を毎日アップするようになった。これならば、遠くに住む祖父母にも見てもらえる。ところが次第に、成長記録以外の「なにか」を感じるようになった。

「子どもの身長が何センチになった“以外”のうずくものがあったんです。ちょっと前の写真を見ると、こんなに大きくなったのか、っていうもの“以外”。写真とか声に残せないなにか。思い出せなくなってしまうなにか。それを残したくて、言葉にするようになりました。」

残しておきたい、という欲求は次第に子どものことにおさまらず、日常の景色や出来事へと世界は広がっていった。

人生には急ブレーキがかかることがある

再び西国分寺に戻ることになったのは、両親が体調を崩したことがきっかけだった。子育てをしながら、親の世話をしつつ、3つの仕事を掛け持ちしていた。戻ってきた西国分寺にクルミドコーヒーという名のカフェが出来上がっていたことに気がつかないくらい、忙しい毎日。そんなある日、急ブレーキがかかった。

「人生には忙しかろうかなんだろうが、急ブレーキがかかることがあるんですよね。私の場合は自分の病気で『明日から入院してください』だったんです。」運ばれた救急センターで、今の状態は命に関わることだと告げられ、忙しかった毎日は強制終了ボタンが押された。

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「ハッと目が覚めて不思議な感じでした。少し経ってから『休めない・辞められない』に取り憑かれていたなって思いました。結果的にこうなっちゃうほうが周りに迷惑かかることに気付いて。自分を大切にすることが周りを大切にすることだっていうこともその時わかりました。」

そして、忙しい毎日に追われていた時期は「書いていなかった」ことにも気付いた。書こうとするスイッチがどこかわからなくなるほど、何も見えなくなってしまっていたことに気付く。

一度の人生だから、壮絶な勘違いをしよう

入院生活を送っているとき、その「書くこと」を思い出させてくれたのは、夫がもってきてくれた過去の文章だった。「今まで書いたものを、ブログとかもプリントして、もってきれたのが夫だったんです。いい機会だから読んでみたらって。家庭内や親との葛藤だったりが書かれていたので、たとえ明るい文章でもその裏にある感情が見えたりして、フラッシュバックのかたまりみたいな感じでした。」

はじめは見たくもない、という気持ちだった。時間が経つにつれて、少しずつ読めるようになったとき、後に小谷さんの本づくりの芯となるような作品が誕生した。「青い自転車の夢」である。

この作品は、病気になる前の時代、4歳の息子の姿を綴った作品と、病気になった後、「お医者さんになる」と伝えてきた息子の姿を綴った作品の二つが合わさったもの。小谷さんの「ものを書く」という道を繋いでいる作品でもある。そして、この作品を外に出す、ということを後押ししたのは夫のこんな一言だった。「一度の人生だから、壮絶な勘違いをしよう。」

自分を知らない人が読んだらどう思うんだろうと不安をもちながら、踏み出した一歩。 その結果は、第14回読売新聞こども未来賞入賞。作品を見知らぬ誰かに届けるということが、決して勘違いではなく、正しかったことを物語っている。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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