優しく生きるー 津屋崎に住む友人たちを訪ねる旅

特集|優しく生きるー 津屋崎に住む友人たちを訪ねる旅 第1回「優しさの連鎖反応」田中さん家族

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旅の2日目。息子と2ヶ月違いの娘をもつ友人Mさんとお昼ごはんを食べたあと、そのまま田中立樹さん、知絵さん家族の住む家へ送り届けてもらった。足を持たずに津屋崎に来ると、こうしていろんな人の車で送ってもらうことがある。Mさんも田中さん家族の自宅の場所を当然のように知っているところがまた、人と人との距離の近さを感じる。

田中さん家族に聞いた“優しさと強さに纏わる物語”【2013年4月22日】

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田中立樹さん、知絵さん家族は、一男二女の5人家族。2012年1月に東京から津屋崎へ移住。革細工ブランド「cokeco」として靴や鞄、お財布やブックカバーなど、革製品の制作販売をしている。初めて田中さん家族に出会ったのは、2年前の秋、福津市主催の「津屋崎子育て体験の旅」というモニターツアーだ。津屋崎の一年を通した愉しみを地元の人と語らい、体験するとともに、参加者の交流も深めるといった内容だった。1泊2日という時間、初対面の人間同士が、しかも家族ぐるみで、共にテーブルを囲んでごはんを食べ話をする、それは自然とその家族のもつ雰囲気や、大切にしているものが伝わってくる場だった。

生きもの好きの立樹さんと長男の楓土(ふうと)くん。アンパンマンやレンジャーに憧れる年頃にも関わらず、毒キノコについて熱く語る4歳児に圧倒されたことを今でも覚えている。母親と子どもたちが別行動をする時間、通りを挟んで子どもたちとすれ違うとき、「かあちゃん、すきー!」と大きな声で手をふる楓土くんを見て、いい家族だなあと子育て初心者の私は憧れの目で見ていた。

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そんな田中さん家族のご自宅兼アトリエにお邪魔させていただくと、まずは玄関にマトリョーシカのように順番に並べられたアオイガイの貝殻に目を奪われる。リビングに置かれた水槽、子供部屋に並ぶアブラムシ図鑑、毒キノコ図鑑、日本のクモ図鑑。テーブルの上には長女の水萌ちゃんが拾ってきたツツジの花が、ガラスコップに入れられて鮮やかな色を放っていた。

テーブルにつくと、手づくりの酒粕のクッキーを出してくれた。子どもたちの賑やかな声を聞きながら、素朴な優しい味のするクッキーをつまみつつ、のんびりとおしゃべりが始まった。

いい意味でお世話を焼いてくれる人が多い

まずは知絵さんがはじめて津屋崎に来たときの、“優しさ”に纏わる話をしてくれた。「自分たちが泊まっていた宿の隣の吉田屋(民宿と居酒屋を営む)のおばちゃん。その旅の最終日にごはんを食べにいったら仲良くなって、次の日も駅まで送ってくれたりして。子ども二人いて大変だろうからって。出会ってすぐなのにね。最近でも、ごはんを食べる約束をしていたら電話がかかってきて、向かってますって言ったら、いや迎えにいこうと思ってるって。妊婦だから大変だと思ってさ~って。おせっかいといえばおせっかい(笑)。でも私は好きだから。」

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いい意味でお世話を焼いてくれる人が多いのだという。展示会などで忙しいときには子どもを預かってあげようかと声をかけてくれる人もいる。そこには、優しさの連鎖反応が起きているようだ。「優しくしてくれると、こっちも優しくなるというか。」

移住の決め手について立樹さんはこう話す。「自然だったらもっといいところはある。住むと決めたのは、どうしようかなと迷っていたとき、住んでる人たちとごはんを食べる機会をつくってもらって。興味があることとか、気にしていることとか、価値観が近かった。なんか不思議だなって。たまたま福岡のはずれの土地にきて、そういう話をして、普通に話ができたから。これから楽しく暮らせていけるかなって思った。なんとかなるかなって。」

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移住に悩んでいた時期は、原発の反対運動などが盛んだった2011年の秋。原発に対する考えだけでなく、食べ物や子育てに関する考えにおいても、共通の話題を話す人がたくさんいることが住んでみてわかった。豊かな海があることも、価値観の近い人たちがいることも、全部含めての「環境」が津屋崎を選んだ理由だ。そしてこの環境に居心地が良いと感じる人が徐々に集まってきている。

子育てはのびのびと

移住して1年経ち、移住者同士の交流は盛んだという。「大学生から50歳くらいとか、自分の親世代の友達もできました。交友関係の幅が広がりました。」 いろんな大人たちと自分の子どもも含めて遊ぶ機会が、東京で暮らしていたときより多い。自営業の人もいれば、会社勤めの人もいる。大人たちを通して、社会にはいろんな人がいること、いろんな職業があることを子どもたちがわかってくれて、その先は子どもたち自身で選択してほしいと話す。

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これから先、この場所でどんな風に子どもたちと暮らしていきたいかと尋ねると、「子育てはのびのびとだね」と二人は口を揃える。幼稚園では、砂場に落ちている貝殻と遊び、そのうち虫と遊び、今ではお友達と遊んでいるという楓土くん。子どもの進む方へと、思いっきり成長の枝を伸ばしているように見える。

最近は福間駅の近くにイオンモールができ、田んぼが宅地化されてたくさんの建売住宅が販売されていることを教えてくれた。住宅の売り文句は「イオンモール、映画館、海の近く、電車で30分」そんな言葉が並ぶ。市内に比べてこの土地なら安くで家が持てる。それに惹かれて移り住み人たちも増えていく。「空き家がいっぱいあるのに、そんなに家建ててどうなんだろうって思う。でもいい方向にそういう人たちも、街をよくしていけたらいいですよね。実際何をしているわけではないけど、住んでる街について考えるようになりました。」

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子どもたちにとってのこれからの社会を、僕らが考えていきたい

子どもたちも育っていく街について、10年後どうなるんだろうという思いがある。 そしてこの街でどう暮らしていくのか、話せる仲間がいるという。“強さ”に纏わる話だ。「周りに同じような自営業の人がいるから、困っているとき相談できる。経営とか仕事を動かすことについて、勉強会を開いてくれたり、人を紹介してくれたり。僕たちは閉鎖的に暮らしたいわけではないし、生活していく中でお金がないといけない。この街だけではお金をまわすのは無理だから、そういう意味で販路を作ったり、アドバイスをくれる人がいる。」津屋崎に移り住んでからできた友人たちは、ただ遊ぶ仲間というだけでなく、どう生きるかを語らえる仲間。津屋崎にはじめてきたとき感じた、価値観が近い人がいるから大丈夫、なんとかなる、という想いは間違っていなかった。

「子どもたちにとってのこれからの社会を、僕らが考えていきたいなって。明るい楽しい世界であったらいいじゃないですか。大げさには何もできないですけど、どんだけ死ぬまでいい時間を過ごせるかなって。」

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理想を言えば、野菜の自給自足を夢見ている。ところが、仕事をしながらの作業は想像以上に難しく、収穫はできなかったという。今は、徐々にシフトいけばいいと思っている。周りには理想を形にしている人もいるし、相談できる友人がいる。今後は、最近習い始めた天然染色の商品を思案中だ。いつかは狩猟免許を取って、最終的には皮をなめしたいと話す。どうやら山の方面に詳しい知り合いが増えてきたそうだ。人との繋がりはきっとこれからも広がっていくんだろう。

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撮影場所として選んだのは恋の浦の海岸。博多駅から30分とは思えない、海の碧さにびっくりする。陽が落ち始めた夕方、光がキラキラと反射して眩しい。立樹さんは、海水を入れるための大きなペットボトルを片手に長靴を履いて、波際まで歩いていった。満月と新月のとき海が大きく引く大潮の日になると、そわそわして仕事にならないと笑って話す。「大潮のときは、水槽に入れる海水をとってくるって出かけて2時間くらい戻ってこないんですよ」と知絵さんが教えてくれる。大人たちで会話をしていると、いつの間にか離れたところで、楓土くんは熱心に虫の観察(アブラムシの捕獲?)をしていた。

「のびのびと」。大人も子どもも「のびのびと」。心が大きく膨らんだとき、きっと人は優しくなれるし、強くもなれるんだろう。

「明日の夜は男性陣で飲もうよ」なんていう楽しげな話をしながら、その日の夕食会の準備をしてくれている都郷さんたちが待つ場所まで車で送り届けてもらった。息子は楓土くんからもらった白いミニカーを握りしめている。この優しさのお返し、どうやって返そうか。そう考えると頬が緩んできて、心にあたたかいものがじわじわと広がり始めた。

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続く

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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