ドキュメント“ものをつくるということ”

ドキュメント“ものをつくるということ”|デザイナー・横畑早苗 vol.3『その人の“好き”に寄り添う、デザイナーのアトリエ』

こちらの続きです)

結婚式を挙げたことがあっても、結婚式を挙げたことがなくても、女性はきっとウェディングドレスを目の前にすると胸が踊り、目が輝く。atelier naeのアトリエはデザイナー横畑早苗さんの自宅でもあるが、ウェディングドレスのある自宅となれば、やはり普通の家とは異なり、女性なら誰しもテンションが上がってしまう。真っ白なシフォンの花が胸に飾られたウェディングドレスを横目に、日常の制作風景について話を聞かせていただいた。

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ウェディングドレスデザイナーの一日は、妻としての仕事から始まる。朝7時に起き、お弁当を作り、夫を見送ったあとに家事を片付ける。そして9時から仕事モードがオンになる。リビングのテーブルを端に寄せ、広いスペースをつくり、夫婦団欒のリビングはアトリエへと変化する。ドレスは1枚のパターンが150センチにもなるため、テーブルにはのらないサイズ。床に布を広げ、パターンを引く日もあれば、裁断する日もあれば、縫う日もある。

日中の気晴らしはお昼の時間のみ。「気分転換がうまくないんです。暇になるのが怖いからそんなにやることがなくても、前もってやったり、詰め込んだりしてしまいます。」18時頃、一旦夜ご飯の準備など家事に戻るものの、夫から帰宅の電話がくるまでは、仕事を続けている。つまりは一日の大半が仕事だ。「もともと一人で過ごすことが下手なんです。外でごはんを一人で食べられません(笑)」そんな真面目な自分の性格を横畑さんは笑って話してくれた。

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その人が好きかどうか

オーダーメイドのウェディングドレス制作は、お客様を掘り下げることから始まる。「洋服に限らず、お客様の好きなものや、どんな生活で何を大事にしているのかを聞いて、そこから具体的にどういう形が好きですか、と聞いていきます。」中には、第一印象と中身にギャップがある人もいる。まずはたくさん話しを聞いて、二人のバックグランドを掘り下げていくのだ。まるでカウンセラーの仕事のようにもみえる。

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お客様に提案する生地の中には、自分が好きではない素材は選ばない。つまりはその時点でatelier naeらしい世界が始まっている。形においてもそうだ。「基本的にはお客さまのお好みの形でお作りするけれど、イメージをお持ちでない方には、その人が一日リラックスできて似合いそうな形を提案します。エンパイアラインかAラインが個人的には得意です。」
ウェディングドレスは、着たことがある人ならわかるだろうが、かなり締め付けられて苦しさも感じるもの。そこに、結婚式という日を、一日気持よく過ごせるものをつくりたいというatelier naeらしさが映し出されている。

作りながら大切にしていることは、「その人が好きかどうか」。とてもシンプルで奥深い、そのポイントを探っていく。「はまった!っていうときが一番嬉しいです。お客様の表情をみてわかります。」

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展示会に出展するサンプルのデザインは、オーダーメイドと逆でインスピレーションがパッと浮かぶことが多い。「すごい極部だったりするんですけど、胸の形の部分だったり、スカートの裾だったり、何枚もデザイン画を描いて組み合わせて、一つのデザインができたりします。」

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コミュニケーションの怖さがなくなってきたのは、半年前くらいから

一人で立ち上げたブランド。デザイナー、経営者という両方の立場で続けた2年間を振り返ると「苦しい」という言葉を訂正して「難しい」の一言が出てきた。「これまでいっぱい無駄使いしたなと思います。その分、生地の買い方や原価の計算などがわかるようになってきました。あとは人とコミュニケーションの部分。取引先さまとのお付き合いの仕方というのもだいぶわかってきました。」

横畑早苗という一人のデザイナーとして社会に立ったとき、自分がつくりだした「もの」で全てを判断されるようになることを痛感した。そこには守ってくれる会社や上司もいなければ、ブランド名だけで信頼を得ることもできない。最初はお客さまやバイヤーの反応が悪いと、自分の人格までも否定されているような気持ちになることが多かったという。

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そんなコミュニケーションの怖さがなくなってきたのは、半年前くらいからだ。きっかけはウェディングドレスを取り扱ってもらいたいと思っていた会社の社長さんから言われた言葉だった。バイヤーとしての経験を長くもち、いいものとそうでないものを一瞬で判断する眼をもった人物。ヘッドドレスを一瞬みただけで「うん、かわいい!」と一言。この一言で「これでいいんだ」と強く胸に思った。じわじわと広がっていく安堵と自信が、コミュニケーションの怖さを溶かしてしまったようだ。

今はたくさんの人に会い、話すようになったことで、どんな反応であれ、それぞれ違うことに興味があり、違う生き方をしていることを、肯定的にとても面白いと思うようになっている。直近の課題は、年内に店舗をもつことだ。ウェディングドレスは着てもらわないと始まらない。だから早くお店を構えたい。

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atelier naeのドレスを身にまとった花嫁は、自分の大好きと大切を身にまとっていることでもあり、それはいったいどんな気持ちなるんだろうと、二度とウェディングドレスを着ることのできない身としては羨ましい妄想が膨らむ。そして一緒にドレスを考えてくれる人が、横畑さんのような人だったら、心の中にある自分の大事な部分の扉はそっと開かれるんだろうと思う。そしていつの間にかその扉がなくなっていることに気がついたとき、目の前には世界に一つだけしかない、自分の大好きと大切が詰まったドレスが待っているんだろう。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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