かけ算の生き方

特集|かけ算の生き方 Vol.4「人と人を繋げる架け橋になる」社会起業家・高橋邦之

国際交流というと、なんだか掴みどころがないような、実体のない言葉に感じる。社会起業家の高橋邦之さんは、革新的なアイディアでそれを実現するのではなく、人と人を掛け合わせることで、その言葉に血を通わせ、生きたものにしている。それは互いの国で暮らす人たちが、ちょっとずつ距離を縮めるための架け橋のような存在である。

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Face&Works

高橋さんが代表理事として務めるNPO法人ポレポレは、途上国の社会的課題を解決に結びつく商品の販路開拓を通じ、異文化理解による世界平和の実現を目指す団体だ。

今年の5月から販売を開始する、カンボジアの手織りシルクストール「メコンブルー」は、読み書きの出来ない女性たちによって作られている。リーマン・ショック以降、世界へ向けての販路が絶たれていたところ、高橋さんがその繋ぎ役として輸入販売をすることになった。

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©Photo Yoko Fukatsu

ストールの繊維の品質は、5段階中のほぼ5。百貨店に卸せる品質の基準は3ということなので、かなりの高品質であることがわかる。現地でストールを織っている女性たちは、自分たちが作り出したものの価値を測ることができない。そういった評価をフィードバックすることで、現地の人たちの喜びや自信になっている。

History

高橋さんは自身の人生を「ローリングストーンです」と笑って話す。時代の大きなうねりに飲み込まれつつも、その波に乗っている生き方は、常識的な生き方をかなり逸脱している。

小学生の頃は、恐竜が大好きだった。母親に「ただの骨よ」と言われても、どうしても見たくて、片道1時間半かかる上野の博物館まで、一人で足を運んだこともあった。「その頃から何かを調べて行くというのが好きなのかもしれません。」見たい、知りたいという気持ちに引っ張られて、遠い地まで足を運ぶ性格は昔から変わらないようだ。

中学校では、授業の一環として地元のおじいちゃんおばあちゃんに聞き語りをするという内容があり、お盆の風習や昔の遊び、郷土料理等を聞いた体験に面白さを感じた。それが「民俗学」という学問であることを知ると、将来勉強できる道筋のある高校を選んだ。

そんな高校時代に身を注いだものは、70巻ほどある「世界の名著」だった。きっかけは中学生の頃に付き合っていた彼女にフラれ、救いを求めていたのだという。その求めた先は、バラモン教から始まり、コーラン、ニュートン、アリストテレス、ゲーテ、ダーウィン等、世界史に刻まれた名著が集められた叢書だった。「その人たちは、フラれたとか小さいことに囚われてないから答えは書いていなかったんです。」と大真面目に話す高橋さん。その事実に途中で気づいたものの、もともと何かを始めるとやめられない性格。そのまま全巻読破してしまったのだ。

読んでいくうちに友達は減り、ドストエフスキーやチェ・ゲバラの姿に感化され「貧しい人を救わなくてはいけない。まずは労働者にならなくてはいけない」という想いから、アルバイトをして社会で働き始める。もともと「世界の名著」を自分のお金で買うためにも資金が必要だった。しかしそこにはカラマーゾフ的な世界も、チェ・ゲバラ的な世界も存在しない。「社会革命をしたかったんですが、みんな楽しそうに働いていることに気づいてきました(笑)。」

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高校時代から始めたアルバイトは卒業後も続き、正社員になってほしいと言われたらやめるという苦行を自らに科し、20〜30ほどの仕事を転々としていた。そんな姿に見兼ねた恩師から「馬鹿なことはやめろ」と言われ、妹さんが経営するスペイン料理屋で働くことを勧められることに。

お店で働くことになると、スペインの陶器の販売を任されるようになった。ちょうどWindows98が世に出まわり、まだ楽天に1000店舗もない時代だった。輸入雑貨を取り扱うショップは少なく、販売すると瞬く間に売れていった。TOC(東京卸売りセンター)に買い付けも始めたが、徐々に問屋が直接ウェブショップを始めるような流れがやってくる。小売の立場から問屋の立場になる必要性と感じていたところ、恩師の弟さんからエストニアの話を聞く。ロシアの友人が、わざわざエストニアまで行って、カーディガンやマフラーを買ってきてそれがなかなか良いものだという話だった。

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2000年1月、新規開拓できる可能性を感じ、買い付けをするためにエストニアまで飛び立った。スタートは「手探りというか目隠し」だったと高橋さんは表現する。いろいろな人に助けられ、ようやく日本人用にリサイズをしたり色味を増やしてもらうことが実現すると、ウェブショップで徐々に売れていき軌道に乗り始めた。

当時はメールマガジンを送ると、30〜40通ほど返信がくるような時代だった。メールマガジンでは、エストニアのおばあちゃんを丹念に取材してお客様に伝えたり、切手、お酒、看板、デートスポット等、様々な情報をコンテンツとして配信した。2年に1度、テレビや新聞に取り上げられたこともあり、10年間その事業で食べていくことができた。

10年という歳月でエストニアという国自体も高度経済成長を遂げ、当初支払っていたキャッシュが時代とともにだんだんとそこまでのインパクトをもたなくなってきた。「フェアトレードとしての役割が一つ終わったのかなと思いました。」その後は、エストニアと日本を結ぶ文化保全の立場として関わることに決めた。

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次に何をするか探していると、ビジネスの力で社会を変える「社会起業家」の事例を集めた書籍と出会う。これまで自分がやっていたことが、フェアトレードと呼ぶことをそこで知った。その後はソーシャルベンチャーパートナーズ東京(SVP東京)に入り、中間支援という形で関わりながら、フェアトレードやソーシャルベンチャーについて勉強をした。

そして2010年、民主党が政権をとり「あたらしい公共」という言葉と共に、社会起業家を地域につくろうという仕組みがあらわれると、高橋さんは危機感を感じた。ここでNPOとして芽が出るものをやらないといけない。「飲み屋でおまえやれよ!って言われてひけなくて(笑)」とそのきっかけを笑って話す高橋さん。エストニアでの事業を通して、ノウハウは身につけていた。あとは自分が立ち上がるだけだった。

「ゆっくり」という意味のスワヒリ語に、「それぞれの人・国に寄り添って、しかし敢然と決してあきらめず、進化と向上を目指す」そんな気持ちを込めて、2010年NPO法人ポレポレを設立する。ケニアのオーガニックのマカダミアナッツの販路開拓から活動が始まり、今年の3月にはカンボジアへ渡り、手織りシルクスカーフの輸入販売へ向けた準備を進めている。

Philosophy

高橋さんは自身の活動において、「何か革新的なアイディアがあるわけではなくて、部分部分でカスタマイズして、繋いだときにシナジーがでる」という仮説をもっている。例えば、現地の人たちに価値や評価をフィードバックしたり、商品のトレンドを教えてマーケティングに寄せる。一方日本はただ消費するだけでなく、知る喜びに寄せてあげたり、少しずつネジを合わせて双方のバランスが良いところで繋げるのが高橋さんの役目だ。

「カンボジアという国ではなく、●●さんが暮らしている国、と認識が変わると、カンボジアに何か問題が起きたとき、きっと取る行動は変わってくると思うんです。」商品のむこう側とこちら側の両方に人の顔が見える。きっとそれが「国際交流」という言葉に息を吹き込み、血を通わせ、生きたものにするということなんだろう。

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Future

今後はポレポレパーティというイベントを通じて、国際交流のきっかけづくりをしていきたいと話す。「アジアにおける日本の役割」などという硬いタイトルを掲げるのではなく、「カンボジアのストールを試着してみませんか」という切り口で、お客さんが気軽に参加できるよう扉を開いている。

そして5月から販売するメコンブルーは、エストニアの経験を活かし、織り手一人一人の背景を日本の人たちへ伝えていきたいと考えている。いずれは販路にのせれば支援ができる輸出入のプラットフォームをつくり、国や商品を増やしていく予定だ。
「これからの未来、日本人は移民を受け入れる可能性は大いにある、もしかするとアジアに出稼ぎする人が出てくる時代になるかもしれない、だからこそ顔の見える交流を一つ一つ作っていけば、それが平和に繋がるのではないかと思っています。」

そこには、社会革命を目指したチェ・ゲバラの姿がチラつく。今の時代に革命なんて言葉は、時代錯誤かもしれないが、顔の見える交流の一つ一つこそが、21世紀の革命の形なのかもしれない。

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カンボジアでつくられたストールを日本で売る、ということはプロダクトと人を掛けあわせているようにみえるが、高橋さんという架け橋が繋ぐことで、人と人とを掛け合わせているように見える。きっと誰かがつくった橋を渡ることは簡単で、世の中を見渡すといろんな橋があり選ぶこともできる。そんな中で、自分が何かの架け橋になるということは、トリガーになるということ。革命を起こすまでのトリガーでなくても、その先には自分一人の力では見ることのできない広い世界が待っていて、もしかすると時代を動かすほどの力も秘めているのかもしれない。


プロフィール

高橋邦之(たかはし・くにゆき)
NPO法人ポレポレ代表理事。1973年東京都生まれ。2000年エストニアに渡航し、以来約10年、手工芸品を輸入販売し、高齢者の女性や、島嶼部、農閑期の雇用創出に寄与。その経験をもとに、途上国の社会的課題の解決に結びつく商品の販路開拓と、卸先で国際交流イベントを開催することを目的としたNPO法人を設立。途上国の人道支援、貧困解決だけでなく、日本各地で多文化理解と地域活性化を図る。2011年ケニア視察ののち、ケニアナッツカンパニー等のネットショップ立ち上げに参画。2012年10月より卸先を開拓中、現在11社と取引中。2013年1月より、読み書きのできないカンボジア女性の雇用創出に取り組むSWDCとの協働開始。
NPO法人ポレポレ:http://www.poreporejapan.org/
メコンブルーティザーサイト:http://mekongblue.jp/
メコンブルーWeb Shop:http://mekongblue.thebase.in/

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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