かけ算の生き方

特集|かけ算の生き方 Vol.2「貪欲な独学力で世界を切り開く」デジタルアーティスト・早坂あきら

ITに関する技術は習得しようとすると、終わりのない追いかけっこに巻き込まれたも同然だ。最新の技術や知識は、捉えきれない膨大な量と速さで、日々進化している。そんな世界で、デジタルアーティストの早坂あきらさんは、専門的に技術と知識を積み重ねていくのではなく、幅広い技術と知識を掛けあわせて、自ら道を切り開いていっている。貪欲なその独学力は、時には企業のクライアントワークとして、時にはオリジナルの作品として出力され、世界に揺さぶりをかけてくる。

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Face&Works

早坂さんの作品を見ていると、SF映画に出てきそうな、出会ったことのないその「もの」に衝撃を受ける。今までみたことのないものだから、当然戸惑いもするし、頭で消化するのに時間がかかる。

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例えば「Voice Painting」という作品は、スクリーンに浮遊する小さな粒子に向かって、メガホンで何か単語を叫ぶ、すると粒子たちがたちまち集まりその単語の形を成し、数秒すると崩れていきまた浮遊を始める。まるで、意志をもっている粒子に話しかけて、操っているような感覚だ。そして粒子たちが単語の形になっていく瞬間と、崩れ落ちていく瞬間に、普段目に見えない「言葉」というものの実体を垣間見たような気がしてドキリとする。

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「Live Data Visualization」というバンクーバー美術館のインスタレーションは、街中に置かれてキオスクの画面に表示される質問に対して、選択肢を選ぶと、その結果が美術館のディスプレイにリアルタイムで反映されるような作品だ。環境はインターネット回線がつかえない状況。電話回線を使用して、情報をサーバーに集めてそれをディスプレイに表示させる仕組みを作った。ディスプレイのみ、通信のみのスペシャリストは探せばいるかもしれない。しかし早坂さんは一人で形にしてしまう。
「会社で働いていたら、自分の仕事以外はやらないと思うかもしれないけど、一人でやっているとやらなきゃいけないし、それを全部できるようになるのが面白い。」解答のない問題に対して、思考と技術を常に進化させながら答えを探し当てていくような道だ。

History

早坂さんは大学で上京するまでは、北海道旭川市で育った。大学受験に対して疑問をもっていたことから、高校卒業後はアルバイトで貯めたお金でインドへ旅立った。はじめての単独海外旅行で痛い経験をする。インドを横断する列車で寝ていたとき、スリに遭い、お金も帰りの航空券も失くしてしまったのだ。たまたま出会った人たちに助けられ、帰国できたものの、自分の通用しなさを実感し大学で勉強をしようと決めた。「当時18歳で世の中なんとなるだろうと思って行ったんだけど、全然太刀打ちできなくて、ビビっちゃうし、自分のレベルが低いなって感じました。」

たまたま本屋でみつけた雑誌で国際基督教大学の存在を知る。専門的に学問を学ぶというより、知識として広く学べる環境であることに惹かれた。大学にいざ入ると、予想通り知識の扉が広く開かれていて、その中で思想史に興味を持った。「文芸にしろ美術にしろ、メインのリソースって哲学とか、人間の認識がどうなっているかって考えた人たちから引っ張ってきているから、そこに根っこ感を感じました。」その頃から今も読み続けているものが、ラカンやドゥボールといった思想家の書籍だ。

いっときは、小説家になりたいという気持ちもあった。「流れている音楽のメロディーを全部言語化しようと思ったんだけど、頭が変になっちゃったんです。」曖昧なものを言語化することには、限界を感じてしまった。

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大学卒業後は、それまでかじったことのあるプログラミングに、再度方向転換しようと思い、仕事をしながら勉強できる道へ進みたいと考えていた。幼い頃から手作業で何かものをつくることが好きだったということもあり、デジタルな工作をやりたいというぼんやりとイメージもあった。SI(システムインテグレーター)系の会社の求人をみつけるが、1年程で辞めてしまった。「自分以外の人のために生きられないなって。会社の利益を目指す方向が、自分の目的と合致していたらいいんだろうけど、これ以上続けるのはもったいなと思いました。」それに加えてまた外国へ行きたいという気持ちや、プログラミングの知識も体系立てて整理したいという気持ちが心の中にあった。

そこでみつけたのが、ベトナムでオフショアの会社を設立するという求人内容だった。「ベトナムにこだわりがあった訳ではなく、仕事内容にこだわりがあった訳ではなく、ただ行ってみたい」その気持ちだけだった。行ってみた結果は大成功。働きにきている人たちは、ベトナムの有名な工学部を卒業した人たちばかりで、プログラミングや工学的な知識を、根本的な部分から教わることが多かった。働くスタイルも自由で、ビルの9階でアルミ板にアルコールをまいて火をつけて串を刺し、イカの干物を食べたりと、日本では考えられないような行動も楽しい思い出となっている。

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1年半ほど過ごしたベトナムでの経験を通し、早坂さんはデジタルメディアという方向に進むことを決意した。「全体的に腑に落ちた感じがしました。色々手を出していたんだけど、それが繋がったんじゃないかな。」

ベトナムの会社の売却を日本の本社が判断すると、早坂さんは迷わず退職を決めた。その後、クリエイティブコーディングツールであるprocessingやopenFrameworkを使いながら、ネット上の掲示板で話したり、同じ知識を持つコミュニティに入るようになると、わからないことを聞き合ったり、作ったものを見せるうちに、国内外で知り合いが徐々に増えていった。海外の知り合いが、日本にやってくると、秋葉原を案内したり遊んでいるうちに、友人経由で日本で仕事をしている人を紹介してもらい、クライアントワークとしてデジタルメディアに関する知識と技術を提供して、企業のプロジェクトに参加するようになる。また友人に招待されて他国での制作に携わったりと、国内外の様々なプロジェクトのチームの一員として現在は活動の幅を広げている。その傍ら、自分の作りたいデジタルメディアアートも制作して発表を続けている。

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早坂さんはクライアントワークと自主制作を切り離して考えることはしない。関わっている人数が違うくらい、とあっさり答える。どちらも何かしら「お題」があって、その解決に向けて使うツールとして、様々なプログラミング言語やデバイスが存在するのだ。「言語は多ければ多いほど良い」と、知識を習得する勢いはまだまだ止まらない。

Philosophy

早坂さんにとってアートやもの作りとは「意味のある記号をつくるということ、記号活動に熟練するということ」だという。その背景には、大学時代から読み続けている思想家の書籍の影響がある。

「世界は言語によって初めて理解される。言語化される前の生の現実を理解することはできない。」そんな難しい哲学を淡々と話す。例えば小田和正の「言葉にできない」という曲がある。それは言葉があるからこそ言葉にできないと思っていることだと。「『言葉にできない』ものは、ピュアなカオス・狂気で、そんな不気味なものに価値があると思えない。だから、何か面白いものや、なにかきれいなもの、というより楽器やツールみたいにちゃんと目的があって他者に語りかけるようなものを作りたい。」

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気配、予感、光、影、響き、といった曖昧なものより、自分の会話相手としての人間を信じる。そこには抽象的な分析が必要なものではなく、一本の矢印のように解釈の一貫したものづくりをしたいのだという。そんな哲学が視覚化された作品は、パッと見てすぐに解釈できるものではないかもしれないが、受け手の思考システムに新しい回路を作ってくれるような、面白さと驚きがある。

Future

「どっかで金メダルを取りたい」と早坂さんは話してくれた。自主制作はまだ道半ばで、その作品で生活をしていけている訳ではない。今の働き方に対しては「不安になってもしょうがない。先のことはわからないし、そういうことを考えても今やることが変わるかって言われると、それは絶対変わらないから。」そんな揺るがない気持ちがある。今はまだまだ勉強が途中で足りないと感じている。大学院に入ってみたいという想いもずっともっている。「今年こそは大学院に資料を取り寄せてみようかな。」その貪欲な知識を吸収しようとするエネルギーは、この先も続いていく。

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仕事場に置かれた機械の中には、部品が一つ足りなかったと、使い始めて少し経ってから気づいたこともある、と笑いながら話してくれた。 早坂さんの働き方は、まるで、ルールや説明書のないゲームの中で戦っているようだ。 そんな戦いの中から生み出された作品だからこそ、見た人はこれまでの常識に釘を刺されたような、新たな世界に導き出されたような気持ちになるのかもしれない。

この戦い方は誰しもが真似できる道ではないだろう。ただ自分の力で何かを切り開くということは、自分の限界やテリトリーを決めつけないことが前程であることを教えてくれているようだ。突き進む、その貪欲な独学力が自分の壁も、他人のもつ常識という壁も、ぶち壊す力をもっているのだろう。


プロフィール

早坂あきら(はやさか・あきら)
フリーランスプログラマー、エンジニア、デジタルアーティスト。
国際基督教大学にて、文化研究、芸術、コンピュータサイエンスを専攻。ベトナムにてプログラマーとして働いたのち、現在は日本を拠点に、国内外のプロジェクトに携わっている。
http://www.ampontang.com/

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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