妻に、花束を。

特集|妻に、花束を。第2回「妻らしい花束」

この特集は、ある夫婦を通じて、身近な人への想いを花束という形にして、贈り物をする姿を綴っていく連載記事です。
プロローグ
第1回「登場人物紹介」


花屋・つぐみさんと夫・祐成さんの顔合わせは、西荻窪の古民家カフェで開いた。古い木が醸し出す安心感と、窓から入ってくる春のはじまりを告げるあたたかい風に包まれた土曜日の午後。

まずは夫がはじめて妻に花束を贈ったときの話から、二人のダイアローグが始まった。

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「はじめてお花を贈ったことをすごく覚えているんです。まだ付き合っている頃、妻が当時住んでいた家で、夜中に小さな子どもの声がする、という話があったんです。」

妻が住んでいたのは、古い文化住宅だった。夜中に聞こえてくる子どもの声に悩まされていた妻のために、夫は魔除けになるものを用意しようと思った。一つは自分で描いた鬼のお面。もう一つがカサブランカだった。

「もともとカサブランカはご存知だったんですか?」
「いや、何かで魔除けになるということを聞いたことがあったんです。毒々しさと強さが同居している感じがして魔除けになるんじゃないかって。」

それ以来、夫は妻に花束を贈ったことはない。自分が好きなアネモネの花を買って帰ったことはあるが、それはあくまでも二人のものとしてだ。誕生日や記念日にサプライズでプレゼントをするような性格ではない。

「思い出の場所はどこかありますか?」
「なんだって思い出の場所になると思うんです。でも僕の中でもインパクトが大きいのは、青森県立美術館のオープン企画展示だったシャガール展です。」

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夫はショッキングピンクの装丁の図録を取り出した。

どういう花をつくりたいところにつながると思うんですが、と前置きしてから、自分が想う「妻という人間」について語り始めた。

「妻は強くないと思うんです。人当たりが強くないし、僕との関係においても支えてくれる側で。自分がひっぱったりとかもしない。でも僕からみるとすごく芯が強くて、ものすごく華やかな人だと思うんです。」

だから大きな花の代表ともいえるひまわりではなく、どこかひっそりと佇んでいるカサブランカが妻はよく似合う。

「芯にある華やかさというのは、色でいうと、どういう華やかさですか?
白だけど華やかとか、パッと見てわかる華やかさとか。」
「妻の好きな色があって、ヴィリジアンと朱鷺(とき)色です。でもその強さを白い薄い布でくるんだようなイメージです。」

表に強い色がガツンと出てるような人ではない。でもその中には、揺るがないような強い色をしっかりともっている人。夫からすると、妻は自分に強くて大きなものがあることに気づいていない。自分は小さな積み重ねでできていると妻はきっと思っているんじゃないんだろうか。

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つぐみさんは図録をパラパラとめくりながら尋ねた。

「青森のシャガール展では、どれか思い入れのある絵はあるんですか?」
「どれがというより世界観が好きなんです。妻と僕はこういう絵をみて『なんじゃコイツ』ってゲラゲラ笑うんです。僕と妻の間にはそういう気分が共通にあるんです。」

その共通の感覚。他人には共有できない感覚。言葉にして人に伝えることは難しい。どう説明してもこぼれ落ちてしまうものがある。二人の世界でしかわからないもの。結局はそれが共に歩く人間同士のもつものなのかもしれない。

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マルク・シャガール「カーニヴァル[第2幕]」1942年

「シャガール展というのが思い出なのか、青森というのが思い出なのかどちらなんでしょうね。」
「確かに。この展示が東京だったら行ってないかもしれない。ひょっとするとシャガールは重要じゃないんかもなあ。」

夫の目には青森の美術館の中にいる妻の姿がしっかりと焼き付いている。それは色の記憶。

「美術館の白と、館内のサインに使われている水色。その中に朱鷺色のワンピースを着た妻がいます。とても涼しげで、よく色が合っていた。7月に行ったので、草の明るい黄緑色と川沿いの旅館のこげ茶色も記憶に残っています。」

思い出を色に落としこむ。でもただその色を並べるだけでは妻らしい花束にならない。

「私の中の感じだと、パキッとした色が並ぶというより、なんとなく全体に生成りのような色がのっかっているイメージなんですが、どうですか?」
「僕もそうだと思います。色が強い感じではないですね。」

つぐみさんは、夫の色の記憶のカケラを受け取りながらも、話から伝わってくる夫と妻の雰囲気を丁寧に拾い上げる。
だんだんと出来上がる花束の方向性がみえてきた。
ダイアローグも終盤に差し掛かったと思ったそのとき、夫がふとオーダーを加えた。

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「つぐみさんは直接、妻のことを知らないから、僕を通じて理解してもらうというより、むしろ理解はしなくていいと思うんです。話した言葉たちからうまれてきた印象を形にしてほしいなと。僕が言葉にしていないようなものも含めてもらったらそこに意味があるような気がします。」

ハードルをあげられたようで、苦笑いをするつぐみさん。

「すごく奥様のことを大事にしていることが伝わってきました。夫婦のカタチがすごくいいいんだろうなって。」

既につぐみさんの頭の中には、イメージが湧き上がっているようだ。それをカタチにするための、素材選び。そこに花屋の醍醐味が待っている。

花束の受け渡しは、二人の思い出の場所「小石川植物園」に決めて、つぐみさんと夫は別れた。
日にちは3月24日の日曜日。桜は咲いているのか。散っているのか。晴れてくれるのか。雨に降られるのか。いずれであっても、贈り物を思い出にするための、演出にすぎない。


第3回「想いをカタチにする」へ続く

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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