ドキュメント“ものをつくるということ”

ドキュメント“ものをつくるということ”|デザイナー・横畑早苗 vol.2『大好きなことと大切にしていることをかたちにしていく』

こちらの続きです)

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恥ずかしいという気持ちでいっぱいだった

横畑さんは、2010年12月にatelier naeの立ち上げを決意した。そして翌年の3月に展示会を開こうとスケジュールを組んでいたとき、知り合いからArts Chiyoda 3331を勧められ、行ってみるとちょうど空きがありすぐに予約をした。場所は決まったものの、さて何を作るか。「売れるというより、『はじめました』っていうお披露目のために作ろうと思いました。コンセプトはもともとあったから、空気感を表現するものを作りました。」ところが展示会を2週間後に控えていた2011年3月11日、東日本大震災が起きた。日本全体が混乱と悲しみと不安で揺れ動いていた。しかしここで中止にしてしまったら自分の気持ちが萎えてしまいそうだった。誰もこなくていい、それでも展示会を開こう、そう決めた。

そして迎えた3日間の展示会。強く決意したものの、心の中は恥ずかしいという気持ちでいっぱいだった。「アパレルで働き始めて3年ちょっとの自分が『これです』って人に見せるには質もよくなかったし、全てが恥ずかしかったです。自信がありませんでした。」誰もこないだろうと思っていた展示会の最終日、想像以上の友人や知り合いがかけつけてくれた。自分の好きなダンサーに洋服を身にまとって踊ってもらったインスタレーションも披露した。「普段ダンスをみない人が、ダンスっていいねって言ってくれたのがすごく嬉しかったです。」はじめて自分がつくったものを人に見てもらうことの喜びを知った。

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私の世界観をわかって!というより、欲しいと思うものをつくってあげるほうが向いている

始めての展示会を終えたあとは、知り合いのダンサーから、もともとやってみたいと思っていた舞台衣装の話をもらった。自分の個性を打ち出すカジュアルラインとは異なり、人が表現したいものを読み取って、形にするという作業だった。「曲を聞いて、演出家の方がイメージする言葉をいっぱいもらって、そこから作る。たぶん私が一番喜びを感じることは、人がつくりたいものを、ぼんやりした状態のものから形にしてあげる、ということに気づきました。」これは後に、事業の主流となるウェディングドレス制作でも感じる喜びと同じだった。

一方カジュアルラインは、アパレルブランドとしてきちんとやらなくては、という気持ちで続けている部分が強かった。自分の色を出さないといけないし、出し過ぎると買ってもらえない世界。「何がかわいいかわからなくて、自分で着た写真を母親と妹にメールで送ったりして(笑)。私の世界観をわかって!というより、欲しいと思うものをつくってあげるほうが向いていることに後々気づきました。」

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そんな中、専門学校の就活時代に諦めていたウェディングドレスの仕事は、いつかやりたいという気持ちがずっとあった。たまたまツイッターでクリエイターと創るウェディングを提案する「ホシノイロ」がクリエイターを募集していることをみつける。だめもとで応募をしたところ、主催者が同い年で共通の友人がいることがわかり、トントン拍子で2012年1月に出展することがきまった。それと同時に、知り合いからビッグサイトで開かれる展示会のブライダルブースへの出展の誘いも舞い込んできて、夢にみていたウェディングドレス制作の日々が始まった。

ウェディングドレスはこれまで作ったことがない、完全なる独学で始まった。普通の洋服とは作りが全く違い、落ちない、ずれない、透けない、身体を綺麗に見せる、などパターンをひく時点でもサイズ感も違い試行錯誤を続けた。表現するものは、自分がかわいいと思うもの、好きなもの。デザインは多少甘くても大丈夫、大好きなフレアも入れいたいだけ入れられる、これまでカジュアルラインで悩んでいた柵が取っ払われ、気持ちが楽だった。そして周囲の反応にも違いがみえた。「かわいいねって言われる頻度が高いというか(笑)。周りの反応がすごく良くて、これでいいんだって思いました。」

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どれだけ苦しくてもがんばれるものってなんだろうって思ったとき、それはウエディングしかありませんでした

その後オーダーメイドのウェディングドレスの制作の依頼が数件やってくる。お客様が大切にしているものを生かして、その人に合うものにしていく作業に楽しさを感じた。「たくさんの人に着てもらう喜びより、この人のために作って、その日のために着る、それを家族やみんなが喜ぶっていう、それがたまらなく良くて。そういうことがやりたいって思いました。」

舞台衣装、カジュアルライン、ウェディング、様々な方面に挑戦をした2年間を終え、2013年3月からはウェディングに特化したブランドとして新たにスタートすることを決意した。「カジュアルラインは自分も作る上で無理していることがわかっていたし、続けていくにもお金を食いつぶしていくなと思って。どれだけ苦しくてもがんばれるものってなんだろうって思ったとき、それはウェディングしかありませんでした。」

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人の心に寄り添って、その人の大好きなことと大切にしていることを大事にかたちにしていく

スエットを着た日は、気持ちもどこかダラダラとなってしまう。でも自分の好きな洋服を着た日は、背筋が伸びてどこへでもいける気持ちになる。それが洋服のもつ力。だからこそ、人生で真っ白なドレスを着れる日はその日しかない結婚式で、花嫁であるということを表現する洋服に、花嫁さんの大切にするものと、大好きなものを詰め込んで、気持ちよく一日過ごせるものを作りたいという想いがある。「私が仕事をする上で自分の中で核としていきたい気持ちは『人の心に寄り添って、その人の大好きなことと大切にしていることを大事にかたちにしていく』ということ。そしてそれが自分が一番やりたいことなんだって認識できました。」

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何度も回り道をして、自分の声に耳を傾けては、軌道修正してここまで辿り着いた。 結婚式とは、ウェディングドレスとは何か考えたとき「生まれてからこれまでに出会った人、交わした会話、思い出、想い、すべてを表し、すべてを込めたもの」と横畑さんは話す。あなた色に染めましょう、と寄り添う姿が、自分のものづくりの姿勢であることに迷いはない。もやもやしていた雲がぱーっと晴れるように見えてきた道がある。目に見えない大切なものをかたちにしていくこと、それこそが自分の進むべき道だと、いま強く信じている。


vol.3へ続く

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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