小さな自分の仕事のはじめ方

ー自分のやりたいことを精一杯楽しむべしー小さな自分の仕事のはじめ方vol.4「つくりて 會田由衣」

ゴボウと味噌のフロランタン、七味アーモンド、青のりと酒粕のスコーン。お菓子の常識を覆すような食材の組み合わせは、素材のいつもと違う顔をみせてくれる。まるでその人の知らなかった一面を教えてくれるかのように。「つくりて」の會田由衣さんは、旬の野菜や果物、お豆などを使った、身体に優しいお菓子を作っている。「自分のやりたいことを精一杯楽しむべし」と決めて進んだ道、自分の目で見て、自分の手で触り、自分の頭で判断して、自分の足で人に届け、なにより自分の心に素直に動くことを、胸に決めている。

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幼い頃からずっとあった「ものづくりをしたい」という気持ち

會田さんは、幼い頃から建築関係の仕事をする両親の姿をみていて「ものづくりをしたい」という気持ちがずっとあった。美術館や博物館、映画など、誰かの「ものづくり」に触れる機会も多く、自分ができるかわからないけれど、やってみたいという気持ちがあった。中学高校時代は成果が数字としてわかりやすく出てくることに面白さを感じ、ひたすら勉強をしていた。大学は、工学部の建築学科へ進む。「大学はかなりハードでした。でも男の子ばかりの工学部に入って『やってやるぞ!』という充実感がありました。」大学3年生の時、ゼミの教授から飛び級の提案をされる。結局断ったものの、個人的に大学院の課題を出され、普通の課題と卒論でただでさえ大変な時期、さらなる勉強量と期待を背負い、パンクしそうだった。大学院に進んだが、最終的には身体を壊してしまった。医者からNOがでるほどの完全ダウン。「建築を4年やっていて、自分がそれを仕事にしたいという気持ちはだんだん薄れていっていました。学ぶのは楽しいけど、建築は環境・設備など分業化して一つのものをつくっていくから、自分でものづくりしている感覚がないと思ったんです。」

大学院を辞めた後は、学生時代から続けていた喫茶店のアルバイトをしばらくやっていこうと考えていたが、知人から広告会社のバイトの誘いを受け、アルバイトとして働くことに。雑務等をこなすアルバイトを経て、正社員となり総務秘書を任される。しかし仕事内容に楽しさは感じず、やりたくない仕事で一日何時間も拘束される生活。「なにがやりたいか全然わからなくて。やりたい『職』が思いつかないから、何に向かっていけばいいのかわからなかったんです。」

経験ゼロからのスタート

悩み続けていたある時、ふと「なんとなくパンをこねたいな」という思いがふわっと湧き上がってきた。勤務先で出会い結婚をした旦那さんに相談したところ「本当にそれがやりたいなら、仕事でやりなよ。そのほうが手っ取り早いよ。」と言われ、会社の休日にパン屋やお菓子屋の求人情報を探し、働きたいお店をみつける。ベーグルの小さな個人店だった。それまで自宅でパンを作ったこともない経験ゼロの状態からのスタート。「12時間以上立ちっぱなしは当たり前で体力的には厳しかったけれど、手に職をつけている感触がすごく楽しかったです。ものすごい充実感がありました。」ベーグル屋に1年弱勤め、辞めたあとはスコーン専門店でも勤めたが、「自分のお店をやったらいい」という旦那さんの言葉にまたしても背中を押さる。そして、 まずはひたすらお菓子を作り続けレシピを考案する生活をすることに決めた。

自分のやりたいことやれる時期って今なのかな、って思ったんです

お店を辞めてから2年間ほどは、毎日試作をしては、粉を比べたり、スコーンを1日20種類焼いたり、少量ずつ作っては食べ、作っては食べた。周りはバリバリと仕事をしている友人たち、自分は家でこんなことしていていいのか、経済的にも将来的にも不安な気持ちがあった。しかしだんだんと自分の腕が上がってきていることに手応えを感じるようになる。「初めは粉の味が全然わからなかったんですが、酵母の匂いの見極めとかがだんだんわかってきて。それが楽しくて。」興味本位で参加してみたお菓子やレシピのコンテストで、まさかの入賞もするようにもなった。

そんな中、数年前から体調を崩した祖母を介護する母の姿があった。時々手伝いながら、親の姿をみていると、一人っ子の自分もいつかこういうことをする時期がくるんだろうなと漠然と思った。「自分のやりたいことやれる時期って今なのかな、って思ったんです。」

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自分がいいと思うものを作り続けていれば伝わる人がいる

自分の「仕事」としてやっていくことを決意し、2012年1月、旦那さんに制作を依頼していたHPの完成とお菓子の製造許可が同じタイミングとなり、「つくりて」として活動が始まる。つくりて以前の活動のレシピコンテストで出会った知人を介して、表参道の「文房具カフェ」でお菓子を卸すことも決まっていたため、定期的な仕事が入っていることは気持ち的に安心感もあった。昔からいつか出展したいと思っていた憧れの鬼子母神手づくり市にも出ることを決めた。もともと人と話すことが好きな性格ということもあり、新しい人との出会いに楽しさを感じた。常連さんから他の手づくり市情報を聞いては、東京近辺の手づくり市に精力的に出展している。「新しい出会いがすごくほしいから。出展者さんに話しかけて友達になるとか、お客さまとの会話の中から刺激やヒントをもらうこともあります。」

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つくりてとして活動を始めてから、會田さんは「超ポジティブ」な性格に変わったという。「もともと自分に自信がないタイプ。でも夫の『自分で自分を信じてあげなきゃ』という言葉が大きくて、急にそういう考え方にはなれなかったけど、自分に言い聞かせていました。」やりたいことをやっている人をみると、輝いて見えた。自分もそうなりたいと思った。そしていつしか慎重で超ネガティブな性格も、つくりてを通じ出会いが増えたことで、変わっていった。「自分もそうなりたいなあと思っているうちに、小さな心配がどうでもよくなってきちゃったんです(笑)。今は自分がいいと思うものを作り続けていれば伝わる人がいることを実感しています。」

既成概念に捕らわれたくないという気持ち

お菓子のアイディアは練りに練ってレシピを考えるのではなく、日常で感じる自分の小さな「感」を拾い上げて、ものづくりに落とし込んでいる。「奇をてらってやっている部分はなく、自分では普通だと思っています。八百屋さんでゆずをみつけたら、柚子胡椒作ってみようと思って、食べてみておいしかったら、甘くしてクッキー作ってみようかな、という感じです。」そんな柔らかな思考回路が生み出されるのは、幼い頃から持ち続けている、常識に縛られない考え方が原点にある。「小さい頃から既成概念に捕らわれたくないという気持ちがあり、よく『変わってるよね』と言われることがありました。歳を重ねるにつれていろんな人と出会い、『当たり前なこと』って人それぞれだと強く感じるようになり、さらに既成概念に捕らわれたくないという気持ちが強くなりました。」

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自分のやりたいことをやって楽しんでいるほうが、周りにいる人の幸せにもつながるはず

個人として活動をして2年が経ち今は「自分が作ったものを通じていろんな出会いがあればそれで充分幸せ」という。せっかく独立したのだから、自分が楽しめなければ意味がない。自分がやりたいことをやって楽しんでいるほうが、周りにいる人の幸せにもつながるはず。歳を重ねるにつれて、人はいつしか心配される側から心配する側になる。夫のこと、両親のこと、夫の両親のこと、気にかける人が増えたとき、周りを幸せにする方法は自分が幸せに楽しく生きるということに気づいた。

今後は具体的にやりたいことは決めていない。つくりてをこういうものにしよう、という明確なものもない。それは保守的な考えになっているのではなく、あえて明確にすることで息苦しさや不自由さを感じたくないからだ。今まで通り自然と湧いてくる「これって面白そう」という直感を信じて、これからもものづくりを続けていく。その先には、自分の手で生み出したものを通じた素敵な出会いが、きっと待っているから。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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