小さな自分の仕事のはじめ方

ー自分はこの場所を大切にしているだけでいい。ー小さな自分の仕事のはじめ方vol.3「カフェ百音 岡野東美」

その場所は光が溢れている。蛍光灯や液晶の光ではなく、お日さまの光。冬はストーブ一つだけで、ちゃんと暖かい。暖房機ではなくお日さまにあたためてもらえる場所。カフェ&ギャラリー百音のオーナー岡野東美さんは、そこで「種まき」をしているという。百音の「ツブ」を持って帰ってもらえるように。

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やると決めたら突っ走るところがある

岡野さんは短大に通っていた頃から、周りに「いつか写真集をだすから」と言うほど写真というものに惹かれていた。教育学を学ぶため大学に編入し教職も取ったが、卒業後は写真がやりたくて写真学校の夜間部に通いながら、昼は一般企業にOLとして働いていた。写真だけを撮る1年間をもちたいという想いから、OLを辞めアトリエをつくり制作活動をしながら、夜は飲食店でアルバイトをする生活に。そんな中、ふと「こういう空間に写真飾れたらいいな」という思いが浮かぶ。「やるならカフェがいいなと思って、昼間カフェのバイトを掛け持ちして半年後には辞め、お店を開きました。やると決めたら突っ走るところがあるから(笑)」

オーガニックカフェとしての再出発

百音は、アートが飾られている空間でごはんとお酒を楽しむ「ギャラリーバー」のようにして始まった。芸術とお酒がある所にはタバコは当たり前の世界。オープンしてから3年目、だんだんと身体が悲鳴を上げだした。そんな時、当時通っていたヨガ教室の先生から坐禅断食の話を聞く。「なにそれ、いきます!ってすぐに調整をつけて行ったんです。帰ってきたら、身体がクリーンになっていたから今まで大丈夫だと思っていたものが受けつけられなくなってしまって。仕方が無いし、大丈夫だと思っていたタバコの煙に体が拒絶反応をしました。」その時、お店の改装工事が決まっていたので「オーガニックカフェ」として再出発することを決めた。

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岡野さんが幼い頃に育った食環境は、マクロビオティックに精通していた叔母の影響もあり、ごはんは精白した物よりも未精白のもの、野菜は皮ごと、スナック菓子はめったに食べないといった、一般の食生活とは違いマクロビの基礎知識があった。「お肉料理はもともと好きじゃなかったけど、それまでは作らないといけない、と思ってたんです。でもこれでいいんだと思って。すごく嬉しかったです。」自分の作りたいごはんを作っていると、自然と自分の軸がはっきりしてきた。お店を開きながら、マクロビオティックの学校に3年間通い続け、お店の料理もどんどんと進化していった。

週末だけ開けるお店をつくりたい

そしてお店を始めてから6年目、岡野さんは子どもを授かる。妊娠中も開店時間を遅らせるなどをして、悪阻と戦いながらも、週末は夜の11時までお店を開いていた。家に戻るのは12時過ぎ。このままの働き方では本当にだめ、と助産師さんに言われこの時から人に任せるようになった。「それまでは自分でやらないと気が済まないし、悪いな、という気持ちがあったんですが、お願いします、と言えるようになりました。」

人に頼むようになってから、空気が変わったという。それまで常連さんでないと入れないような雰囲気があったが、カウンター席もつくったことで、一人でも入りやすくなり、これまで来なかったような人がお店を訪れるようになる。雑誌などで「ごはん」をきちんと取り上げるような取材も多くなった。

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だんだんと軌道にのっていく中「週末だけ開けるお店をつくりたい」という気持ちが大きくなっていった。自宅の近所に魅力的な物件をみつけて、企画書を書いて大家さんにお願いをしたこともあった。1年程かけ、自宅兼店舗となるような場所を探し続けた結果、旦那さんが現在の堀之内の物件をみつけてくる。そして高円寺と堀之内の2店舗でやっていくと決めていた最中、2011年3月、東日本大震災が起きた。「もつのが嫌になったんです。厨房用品もオーブンもなにもかも2つ揃えないとって。そんなもってどうするんだろうって。」それまで10年は続けようと決めていた高円寺の店舗。堀之内に移転すればいいということに気づき、潔くやめることを決意した。

自分はこの場所を大切にしているだけでいい

そして2012年4月、杉並区堀之内で新しい百音がスタートする。開店日は週末のみ。ペースをゆっくりとしたものの、はじめの頃は、高円寺時代から続く頭の中の「商売モード」から抜けきらなかった。 息子をベビーマッサージに連れていったら、お店で活用できると思いすぐ資格を取ったり、体調の悪い息子を横に料理教室を開いたこともあった。お店を開けることは「責任」。そう感じていた。しかしだんだんと子どもが犠牲になっていることに気づき始めた。「息子に心をちゃんと向けていなかったなって。せっかくお母さんにならせてもらったのに、女性が本来もっている包むところとか、この場所でやることなのにやれなかったなって思ったんです。今は子どもが一番。体調悪ければお店は休むし、面と向かって遊ぶ時間を増やすようになりました。」

お金に対する考え方も変わってきた。「お金はエネルギーだなと思うようになりました。ピンポイントでここからもらいたいと思わなくても、全体としてちゃんと廻ることを信じていれば廻ってくると思っています。」それまでは毎日つけていた帳簿も今はまとめてやるようになった。稼ぐということは、あまり考えないようにしているという。

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仕事もお金も、上へ上へと成長を追い求めるのではなく、「自分はこの場所を大切にしているだけでいい」と今は感じている。最近はやりたいことを自分がやるのではなく、ベビーマッサージやリフレクソロジーなど、それを中心として活動している人に任せるようにしている。そして自分は、その中で出すごはんやお茶に集中する。「このお茶でホッとしますように、って思ってから出したりするようになりました。自分の役割みたいなものを大切にして、あとは人に任せることにしたんです。」

移転してから1年、この場所に馴染んできたのはつい最近だと話す岡野さん。いろんな心の変化を経て、「百」の「音」がきこえるこの場所のことをあらためてこう考える。「子どもを育てている人に限らず、若い人も、男性も、日々の生活の中で心がきゅーっとなるとき、ホッとできるような場所になれたらいいなと思います。「種まき」のようなもの。ここに来たからどうっていう訳ではなく、お店で他の人と話したことを思い出したりとか、何かを持って帰れる場所になれたらと思っています。」

その場所を開き、ごはんとお茶を出す。それは、 種まきに必要な土と、水と、風と、光を丁寧につくっていることなのかもしれない。自分の役割が何か、わかり始めた今、部屋に溢れるオレンジ色の光はあたたかさを増して、訪れる人たちの心を大きく包み込んでいる。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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