インタビュー

何かを生み出す孤独のために −特別インタビュー 新井卓「Here and There -明日の島」によせて

afod(アフォッド)連動インタビューの第二弾は、銀板写真師、新井卓さん。代表高崎の大学の先輩でもある新井さんに改めて写真を撮る事、2011年3月11日の東日本大震災後の社会、そして写真集「Here and There -明日の島」に込めた想いについて聞いてみました。

小さいころはなんでもできる優等生だった。

まずは生い立ちからお伺いしたいです。

出身は川崎です。元々工場と農村がある街に宅地開発も進んで、色んなバックグランドの人がいてみんな割と仲良くやっている町で楽しかったです。
それこそバラックに住んでいる6人兄弟の友達もいれば、高級マンションに住んでいる友達もいて。
僕自身は超中産階級みたいな家に育ちました。
小さなころは超優等生。勉強は全てできた。中学生ぐらいまでは生物学者になろうと思ってた。

アーティストでは珍しい理系出身なんですね。そんな卓さんが写真との出会いはいつごろになるんですか?

17のときにおじいちゃんが無くなって、遺品のカメラを触ったのが初めてです。35mmフィルムを半分に切ってる使うようなカメラで、いい感じに写るんだけど、写真といえば新聞の写真ぐらいしかないと思っていて、アートとしての写真があるのを知るまではそんなに衝撃はなかったですし、自分が写真家になるとも思っていませんでした。
最初にアートとしての写真があるのを知ったのは、近くの美術館でアンセル・アダムスを見たのが最初です。
とにかくものすごいきれいで、その影響で大学に入ってから本格的に写真を始めました。

大学時代の卓さんの初期の写真に白黒写真が多いのも、その影響なのでしょうか?

カラーは自分で現像できなかったのもあるけど、白黒写真のプリントはすごくこだわってた。 日本語で情報があまりないから、amazonで洋書で技法書を買って試したらすごくきれいで。
当時、レオスカラックスのボーイミーツガールという映画と出会ったというのもあります。白黒フィルムで撮られた映画なのですが、シーンがオーバーラップするところとか、黒いところと白いところの境目もすごくきれいで衝撃を受けました。

その時代、良く旅に出られていた印象があります。

それまでずっと優等生で生きて来て、今まで狭い世界から外に出て他の場所を見てみたいというのがありました。
印象に残っているのはネパール。初めて行った海外なんだけど、とにかく汚いし、空港で騙して荷物盗んでいくような人もいて、しかも毎週木曜は生け贄の日で、動物の血の匂いもすごいし、残飯や糞尿を道に捨ててたり、3日ぐらい外に出なかった。
でも一週間もいたらすごくなれて、調子のってたら、A型肝炎で倒れちゃって結構ヤバい状態で、手とかも痙攣しちゃって、人生ではじめて遺書を書きました。
その体験がすごくて、それまで好き嫌いとか結構あったんだけど、それ以来なんでも食べれるようになりました。

19世紀の写真は現代の写真よりも画質がいい

銀板写真(ダゲレオタイプ)との出会いはいつどのような形で?

大学を中退して、本格的に写真家を目指そうと写真学校に入ったころに始めました。
本格的に写真家を目指そうと思ったときに、画家がスケッチから始めるように写真の技法を一番古い順から学びたかったんだけど、誰も教えてくれなかったので自分で独学で研究しました。
一番ファンダメンタルな技法から順に全ての技法を学ぼうと思ってたんだけど、一番最初の技法であるダゲレオタイプがあまりも凄みがありすぎて、そこから抜けれずにずっとやっている感じですね。

単純に伝統技法だからやっているというよりは、そこに凄い魅力があったということでしょうか。

最初は一番最初の写真の技法だからという理由で始めたけど、やってみたらもう衝撃が本当にすごいんです。
僕らは発展史観の中で生きているから、単純に古いから劣っていると考えるけど、写真に関しては全く逆で、古ければ古いほど、画質がいいんです。 例えば銀板写真は最新のデジタルカメラより全然解像度が高くて、1km先の石ころの表面まで写ります。

最初は色々な資料をあたってってことだったんですが、徐々に自分なりの工夫を加えていったんですか?

いや、それがダゲレオタイプは当時研究しつくされていて完成しているので、19世紀の状態に如何に近づいていくかだけなんです。
今の時代って、もののクオリティってマスプロダクトの時代だから、車とかにしても80点ぐらいのものを大量生産するのは得意だけど、ごく少数の最高レベルのものが、逆に作れない時代なんです。
ごく少数の最高レベルのものって人間の手でしか作れなくて、島根のたたら製鉄というところを仕事で取材したことがあるんだけど、三日三晩不眠不休で、人間がローテクで、温度管理をしながら鉄を作ってて、そこの鉄はものすごい純度が高いんです。

現代でも、最高レベルのものは人間の職人芸みたいものでしかつくれないということでしょうか。

そうですね、だからその職人芸が失われると誰も作れなくなっちゃう。
発展史観だと科学技術を結集すれば最高レベルのものが作れると思ってるけど、全然そんなことないんですよ。
懐古主義ではないけど、そういう人間の手で作られるものを大切にしていきたいよね。

Here and There -明日の島

撮影させてもらった人への贈り物としてこの写真集を作った。

東日本大震災以降、よく福島に行かれて銀板写真を撮られていました。そして「Here and There -明日の島」を今回、発表しました。「Here and There」という言葉にもあるように、震災以後、東京で暮らす人と、福島で暮らす人に「ここ」と「よそ」という断絶を感じていることもこの写真集を出した動機かと思います。

銀板写真は複製不可能なので、複製物にする意味を見出せずなかったので、今まで写真集を出していなかったんだけど、今回一年半の間、福島に通って、現地にいる人を撮らせてもらったんだけど、銀板写真の原板をあげることはできないので、なんとかして撮らせてもらった人たちに写真をあげたいな、あげたら喜んでもらえるかなと思ったのが、最初の気持ちです。
その次に、「震災後の福島はこんなに大変」みたいな映像や報道はたくさん作られていて、それはそれで足りないぐらいなんだけど、問題なのは、東京に住む私たちが福島にも日常生活があるっていうことを忘れがちなことなのではないかと思います。福島は、「場合によっては人間が住めなくなる特殊な場所」みたいなイメージが、東京の人に刷り込まれてるかもしれないけど、向こうの人にも日常があって、通常より濃い放射能の中、幼児の手を引きながらお母さんが保育園に連れて行っているんです。
僕の仕事としてはショッキングな場所や状況を取材することではなくて、向こうの人にも日常があってそれは東京に住む私たちと同じだと思ってもらえる写真を作ることで、それができなければ自分がやる意味がない。

ショッキングな映像は映像で大事なのかもしれないけど、一方で、東京の人は福島を特殊な場所「フクシマ」として記号化して忘れるために、それを大量生産大量消費しているような気がして、卓さんの作品のように、日常を切り取ってみせられる方が時にずっしりくることがありますよね。

そうですね。実はものすごく簡単な話で、みんな一度福島に行ってみたらいいと思います。別に一泊ぐらいだったら病気になることもないし、みんながそれをしたら別に写真を使ってごちゃごちゃすることもないんだけど、そうじゃないから。

そうですね。この写真を見る人に感じて欲しいことはありますか?

今、色んなものがあからさまになってるじゃないですか。
政治にしても、社会にしても、実はここまで劣化してたのかって。
だから、みんな一度、一人になって考えみた方がいいと思うんだよね。
原発問題についても、領土問題にしても、賛成でも反対でもみんな主語を「国が」とか「日本人が」とか大きなものを主語にして、「自分はその大きなもの代弁している」って形で話したがるんだけど、そうじゃなくて一度、自分を主語にして考えてみなきゃいけないと思っています。
作品との関連でいうと、南相馬の漁師さんとか本当にタフなんですよ。
ヘドロの除去にしても、誰も経験したことがないような事態に対してすごく頭を使って工夫して対処してる。
偉そうなことを言うと、もっとみんな自分の頭で考えようよ。ってことです。

本日はありがとうございました。

Interview: Kenji Takasaki (non-standard world, Inc.)
Photo: Shota Sato (non-standard world, Inc.)

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この記事を書いた人:

non-standard world, Incの社長。 経営者であり、WEBエンジニア。 ときどき、妻・大浦を支えるためにイクメンにも。 大学時代に佐藤と出会い、2011年にnon-standard world, Incを設立。 ジャニーズもゴダールもM・ポーターも、平等に愛してます。

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