言葉の小舟に揺れながら

ドキッとする。 私は何を選んで生まれて来たのだろうか。第6話『青い鳥の問い』—「青い鳥」メーテルリンク

第6話 『青い鳥の問い』

「青い鳥」と言えば、
「『幸せ』は、本当はあなたのすぐそばにあるのです」という、
ちょっと教訓めいたオチとメッセージで知られる有名な童話。

でも、ある程度の歳になると、そんなメッセージには、
「ああ、もう、そんなことは言われなくても、よく分かってるんだけど…」
と、親に小言を言われたような気持ちにさせられる。

大切なものは、
近くにあれば、あるほど、
どう大切にすればいいのか、
大切にできているのかさえ、
分からなくなってゆくから。

息子が中学に入学して配られた課題図書リストに、
「青い鳥」が入っていた。
なぜ今さら中学生にもなって「青い鳥」を?と思いながら、
そういえば、ちゃんと読んだことなかったなあと、
貸してもらって読んでみることにした。

読み始めから、ちょっとびっくり。
そして、すぐにくじけそうになった。

知らなかった。
「青い鳥」が戯曲であることを。
つまり、ひたすらセリフがつらつらと連なっている本なのだ。

これ、最後まで読めるかな…と思いながら、
登場人物とその衣装や、舞台セットの詳細など、
丁寧すぎる紹介から、順に読み進める。

そして、第1幕を過ぎたところくらいから、
ん?と、
登場人物たちの、ひと言、ひと言に、
目が離せなくなり、心が揺れ、動く。

第2幕の第3場「思い出の国」では、
チルチルミチルが、亡くなったおじいさん、おばあさんに再会する。

“わたしたちはいつでもここにいて、
生きている人たちがちょっとでも会いに来てくれるのを待っているんだよ。”

“わたしたちのことを思い出してくれるだけでいいのだよ。
そうすれば、いつでもわたしたちは目ざめて、
お前たちに会うことができるのだよ”

おじいさん、おばあさんの会話に、
次々、会いたい顔が浮かび、涙と鼻水がとまらなくなる。

中盤を過ぎたころやっと、
この本が、会話一つ一つが織りなす、
「会話の詩」で紡がれた物語であることに気がつく。

チルチルとミチルは、
死後の世界である「思い出の国」、
生まれる前の世界である「未来の王国」、
美醜さまざまな幸福が登場する「幸福の花園」を、
言葉を得た愛犬や、
パンや砂糖といった暮らしの仲間とともに、
会話を重ねて冒険をする。

そして一団が、
「この世の秘密」に足を踏み入れてゆくと、
すべてを知りたがる人間への疑問、嫌悪すら湧いてくる。

「人間の子どもなんかに、見つかるな!」と
この世の秘密の番人である「青い鳥」が捕まらないことを、
だんだんと祈るようになってしまう自分もいる。
物語の主人公、しかも子どもを、
応援できなくなる経験は初めてだった。

死とは生とは?
光とは闇とは?
自然とは人とは?
そして、幸福とは…
いくつもの問いかけを読む者に残す「青い鳥」。

第5幕の第10場「未来の国」では、
チルチルミチルは生まれる前の世界に行く。
そこには、子どもたちが生まれるのを待つ宮殿の広間がある。

子どもたちは、何か1つ選んで、
それを持って生まれてゆく。

ある子は、寒さをしのぐ帽子を、
ある子は、人間の寿命を延ばす薬を、
ある子は、月の中に隠れた宝を見つける機械を、
そして、
ある子は正義を、ある子は罪を…

ドキッとする。
私は何を選んで生まれて来たのだろうか。

その答えを知りたくて、
自分自身に問い、
時に、誰かにたずねてみたくもなる。

もちろん、答えなど引き出すことはできないが、
その対話や会話のなかに、
きっとわずかな手がかりがある。

私たちが生きる世界も「戯曲」だ。

第三者による客観的なナレーションで、
こと細かな説明が欲しくなる時もあるけれど、
私たちの冒険も、
チルチルミチルの物語と同じように、
自分との対話と、他者との会話、
「セリフ」で成り立っている。

「答え」はいつも、
つかめそうで、つかめない。

あなたと私の間、
言葉と言葉でないものの隙間から、
こちらをじっと見つめてる。

まるで「青い鳥」のように。


作品紹介
「青い鳥」メーテルリンク/著、堀口大學/訳 (新潮社)
1911年ノーベル文学賞受賞。世界中の人々に親しまれている夢幻童話劇。
詩人・堀口大學による訳詩が美しい「会話の詩」で紡がれる冒険物語。

著者・訳者紹介
メーテルリンク(1862-1949):
詩人・劇作家。ベルギーに生まれる。法律を学ぶが、のち文学に転じパリに在住。
最も大きな成功作は、この『青い鳥 (L’Oiseau bleu)』である。

堀口大學(1892-1981):
東京生まれの詩人、仏文学者。
名翻訳により、昭和の詩壇や文壇に多大な影響を与えた。1979年文化勲章受章。

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この記事を書いた人:

もの書き。夫と息子とリクガメと、川沿いの丘の上で暮らす。 日常や世界、音楽や時間を、詩・エッセイ・翻訳にのせて。 代表作「やがて森になる」「月の光」。カレンダー「言葉なきものたちの12ヶ月」 他『扉の言葉』を書いたり、『名まえ』をつけたり。

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