言葉の小舟に揺れながら

新聞コラムとは、ある日、どこかの町で、誰かが残した「世界の日記」。第3話『タイムマシンと熱気球』ー書籍版「天声人語」とスマホアプリ「たて書きコラム」

第3話 『タイムマシンと熱気球』

息子の育児日記の仕上げをしようと押入れのダンボールを開いたら、
彼が小学生の時に続けていた新聞の書き写しノートが出てきた。

保護フィルムに包まれたような幼い彼の日々。
その「外側」で起こっていた、日本と世界の出来事が、
あどけない文字で切り取られ、ボロボロのノートに残っている。

毎日、「何か」あったし、
毎日、「何か」ある。
その「何か」は、言葉によって、
情報となったり、知識となったり。
時が経つと、歴史になったりする。

自分とその半径1メートル以内くらいに視野が狭くなっていると、
その「何か」は視界の外でうごめいて、やがて遠ざかってゆくだけ。
自分の物語の中では、
「知らなかったこと」は、「なかったこと」と同じになってしまう。

新聞の端につづられ続けて来た、
誰かの視点で切り取られた世界を眺めていたら、
自分が生まれた日には、どんなことが書かれていたのだろう、
生きて来たこの40数年、どんなことが書かれて来たのだろう、
目の前の世界を生きることで精一杯だった毎日の
「視界の外にあった世界」が気になり出した。

そして、隣町の大きな図書館の本棚に、
ずらりと並んだ過去の世界へと手を伸ばし、
少しずつ、時をさかのぼるタイムトラベルを始めた。

1904年から続く「天声人語」は、
四季ごとにまとめられ書籍となり、1年に4冊刊行されている。
2000年からは、日本語と英語が対訳で書かれた日英対照版もある。

ページを開くたび、
「ああ、こんなこと、あったねえ」も 、
「え、こんなこと、あったっけ」も。
言葉というものは「タイムマシーン」にもなる。

今日の午後は、
タイムマシーンに乗ってかつての秋を眺めた。
ずいぶん多くの四季を繰り返してきたことを、
ページの数だけ、本の数だけ重く感じた。

かれこれもう数年、
図書館に行く度に、さかのぼって読んでいるけれど、
過去を読んでいるのか、未来を読んでいるのか、
たまに分からなくなる時があるほど、
人は、四季が巡るように、同じようなことを繰り返している。

終着点は、「自分」が始まった日。
机の引き出しから帰るには、まだ相当な時間がかかりそう。
失った時を取り戻しながら、タイムトラベルは続く。

タイムマシーンの旅を始めたころ、
言葉の乗り物にもう一つ出会った。

それは、言葉の「熱気球」。

インターネットの風に乗り、
毎日、日本全国の新聞45紙のコラムを、
まとめて読むことができるスマホアプリ「たて書きコラム」。
(2017.8現在)

全国紙は、
天声人語 (朝日新聞)、春秋 (日本経済新聞)
余録 (毎日新聞)、産経抄(産經新聞)

ブロック紙ならば、
卓上四季(北海道新聞)、中日春秋 (中日新聞)
筆洗(東京新聞)、春秋 (西日本新聞)

地方紙だって、
行雲流水(宮古毎日新聞)、八面観(長野日報)
正平調(神戸新聞)、金口木舌 (琉球新報)

などなど、全45紙の1面のコラムが、
たて書きのレイアウトで画面にずらっと並ぶ。

各地方の「郷土自慢」や「ご当地の味」のような言葉が並ぶ日もあれば、
全国ニュースが駆け巡った日は、
その土地、その地域ならではの「本音」や「ぼやき」を覗くこともできる。

それはまるで、熱気球に乗って、
その土地、その地域を眺めているかのよう。

読めるコラムはその日のものだけ。
日付が変わると、
その日の熱気球は、しゅーっとしぼんで消え、
また新しい熱気球が迎えに来る。

小さなコラムという限られた四角の中、
ぎゅっと凝縮された景色は濃い。

この世に起こった出来事をたどって、
今から過去へのさかのぼる「タイムマシーン」。

この世に起こっている出来事を追って、
列島を縦断する「熱気球」。

近くばかり見て目が疲れた時は、
遠くの緑を眺めるといいらしい。

だから、
自分で囲った世界に息が苦しくなった時は、
「タイムマシーン」と「熱気球」に乗ってみる。

新聞コラムとは、
ある日、
どこかの町で、
誰かが残した「世界の日記」。

そして、
登場人物は、いつも「私たち」。


◎書籍紹介
「天声人語」(朝日新聞出版)
日本と世界の政治や社会。日々の出来事から四季折々の話題までを描き出すコラム。
四季ごとにまとめられて刊行されている。

「英文対照 天声人語」(原書房)
和英対照・本文漢字総ルビ付き。英語学習にも日本語学習にもおすすめ。

◎アプリ紹介
「たて書きコラム」
全国紙から地方紙までの新聞1面コラム欄を無料で閲覧できるアプリ。
https://itunes.apple.com/jp/app/tate-shukikoramu/id482348231?mt=8

<第4話はこちら

スタッフのおすすめ

料理家cayocoさんが、春夏秋冬の旅を通じて人・食材・土地と出会い、その土地の保存食をバトンに食と人をつなぐ「food letters」、その旅とレシピ本の特典付き先行予約が始まりました!詳しくは、こちら


メルマガ好評配信中です。こちらよりぜひご登録ください!

この記事を書いた人:

もの書き。夫と息子とリクガメと、川沿いの丘の上で暮らす。 日常や世界、音楽や時間を、詩・エッセイ・翻訳にのせて。 代表作「やがて森になる」「月の光」。カレンダー「言葉なきものたちの12ヶ月」 他『扉の言葉』を書いたり、『名まえ』をつけたり。

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocket
  • Lineで送る

記事への感想を送る

いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

お名前 (必須)

メールアドレス (必須)

メッセージ