わたしをつくるもの

「探しものは、 いつも時とともにある。」第4回 ツチノコ事件

「財布を落として、改札から出られない…」

親の庇護から離れゆく日々に、
中学入学後すぐの合宿。
元気で無事に帰って来ておくれ、
ただそれだけを願う。

そして、帰宅の日。
はい来た!悲壮感漂う電話。

駅に迎えに行くと、
背中に特大リュック、
お腹に中リュック、
肩に大バック。

手には、
振り回して遊んで骨を壊したのか、
ツチノコみたいに変形した大きな傘。

改札の向こう、
自分の荷物につぶされそうな、
まだ小学生みたいな中学生が、
青い顔で立っていた。

改札口で駅員さんに事情を話す。
乗った駅、降りた駅、
すべてに連絡を取って探してくれたけれど、
見つからなかった。

財布の中には、
お金、定期券、家の鍵、ロッカーの鍵。

「定期券の他に、困るものは入っていますか?」
駅には関係ないことまで気にかけてくれることに、
ほっとして親の方が涙出そうになる。

心細い時に、
優しくされると泣いてしまいそうになるのは、
いくつになっても、どこにいても関係ないらしい。

結局、財布は見つからず、
さっきまでの霧雨は、大雨に。

前後左右、荷物に固められた、
硬い表情の息子をなぐさめながら、
「まあ、傘をさしなよ」と、
ツチノコみたいな傘に目をやる。

まったく、どうすると傘がこんな形に。

いや、まさか。
まさか。

傘を、開く。

あっっ!!

ひょうたんから駒。
ツチノコから財布。

ツチノコを見ると福があるというのは本当だった。
正確には、
ツチノコの中に福はあった。

探しものは、どこに?

大好きだったアニメ映画のハンカチ。
買ったばかりですぐに消えた帽子。
いつも片方しか見つからない手袋。

そして、
失くしていることにすら、
気がつかないものもある。

いつの間にか、何となく、
疎遠になってしまった、
誰かとの時間。

探しものは、
いつも時とともにある。

時を刻むものは、時計だけでない、
人も物も、
歳をとりながら、古くなりながら、
再び重なる瞬間を待っている。

ツチノコ傘の柄を離さずにいたら、
時を知らせる雨が降り、
ある日、きっと傘が咲く。

flower:つぐみ
photo:Takao Minamidate
撮影協力:toneri

つづく


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この記事を書いた人:

もの書き。夫と息子とリクガメと、川沿いの丘の上で暮らす。 日常や世界、音楽や時間を、詩・エッセイ・翻訳にのせて。 代表作「やがて森になる」「月の光」。カレンダー「言葉なきものたちの12ヶ月」 他『扉の言葉』を書いたり、『名まえ』をつけたり。

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