よりそうつきひ

人は完璧じゃないからこそ愛おしい。「おかしい」本のご紹介。

こんにちは、スタッフの小栗です。

本は自分のためだけでなく、贈り物にもできる。良い本との出会いを誰かにおすそわけするような気持ちで、作家・小谷ふみさんと店長大浦が本を選びました。

小谷さんが、著書『やがて森になる』を出版する時に、大切な人からいただいた言葉「つよい・やさしい・おかしい」をお借りして、第一回は「つよい」本、第二回は「やさしい」本を、ご紹介しています。

今日は「おかしい」をテーマに、二人が選んだ本と一節をお届けしたいと思います。

 

▶︎小谷さんがおすそわけしたい「おかしい」本

はかりきれない世界の単位』(創元舎)
著 米澤敬  イラスト 日下明

おすそわけしたい一節:

ブーク(buku) トナカイの角が見分けられる距離

シベリアの原住民たちが用いた、トナカイの角が見分けられる距離。角の枝まで見えたら1ブークになります。ロシアにはまた、野牛の鳴き声の聞こえる範囲という単位があり、これは土地の契約などにも使われた、面積の基準でした。

馬草鞋(uma-waraji)馬の草履が擦り切れるまでの道のり

ソ連(今のロシア)の文献によれば、日本には昔「馬草履」という距離があったと言います。江戸時代の日本では、馬に蹄鉄がわりに草履をはかせていました。その草履が擦り切れるまでの道のりが「馬草履」。だいたい1時間で取り替えたので、2〜3里(8〜12㎞)に相当することになります。

ハナゲ(hanage)痛さの程度  

20世紀末に、インターネットで拡大した、痛さの程度をあらわす単位。「長さ1㎝の鼻毛を鉛直方向に1ニュートンの力で引っ張り、抜いたときに感じる痛み」が「1ハナゲ」と定義され、『日本経済新聞』でも取り上げられました。もちろんその筋の学会では認定されていません。

小谷:
「世の中には本当にいろいろな単位があるんだってことが分かる本で、なるほど!と思う単位も、ふふ、と笑ってしまう単位もあります。

私の息子もこの本が好きで、『何に単位がついていたらいいかな』『悲しみ具合とか嬉しみ具合、その人にしか分かり得ないものに単位があったら面白いよね』と、話をしながら読みました。」

曖昧な、でも身をもって単位を作り上げた人間の愛しさ

小谷:
「おすそわけしたい一節でも挙げた、痛さの単位“ハナゲ”。『頭が10ハナゲくらい痛い』なんて使うのかなと想像すると、おかしくて笑ってしまいます。

他にも、『3km=お茶が冷めない距離』という単位が紹介されていて、お茶が冷めない距離と言われた方が、具体的に数字を提示されるよりもリアルで、身をもって想像できるように思います。

単位というものは、こんなにも人間の体や感覚が基準になっていて、自分や相手の感覚をじっくり見つめることで生まれてくるのですね。

現代は時計やGPSで単位が一目瞭然の中で、自分の体を使ってものを測ってみることが、すごく大事なことだと思いました。

これらの単位には、思わず笑ってしまうおかしさや、漠然としている人間の危うさもあるけれど、お互いに擦り合わせながら単位を作り上げてきた人間の曖昧なところや、ハナゲを単位にするちょっとばかばかしいところに、愛しさを感じます。」

 

▶︎大浦がおすそわけしたい「おかしい」本

父の詫び状』(文藝春秋)
向田邦子

大浦:
「家族の話を題材にしたエッセイです。登場するお父さんは、典型的ながんこおやじ。いつも偉そうで、酔っ払って厳しく怒鳴り散らすのですが、所々に彼の不器用な愛情が描かれていて、それがくすっと笑えてきゅんとなる本です。

なかでも『お辞儀』というエッセイが特に好きで、著者の向田さんが、香港旅行に向かうお母さんと妹を、空港で見送るシーンが描かれています。

お母さんが手荷物で持ち込めない大きい裁ちばさみを持ってきてしまったことに、『なんでこんなもの持ってきたの!』と向田さんが怒り、旅立つ2人に蘭の花束を買ってきた向田さんには、『なんてお金の使い方をするの!』とお母さんが怒り、喧嘩をします。

でも最後、向田さんが『いってらっしゃい』と手を振ろうとしたら、お母さんは静かにお辞儀をしたのです。それを見た向田さんが飛行機を見上げて綴った言葉がこちら。」

おすそわけしたい一節:

(「お辞儀」より)
飛行機は上昇を終り、高みで旋回をはじめた。もう大丈夫だ。どういうわけか不意に涙が溢れた。たかが香港旅行ぐらいでと自分を笑いながら、さっきの裁ちばさみや蘭の花束のことを思い合わせて口許は声を立てて笑っているのに、お天気雨のように涙がとまらなかった。

おかしさに込められた、家族を想う気持ち

大浦:
「こんな風に、家族間では、どうでもいいことを本気で怒ってしまうもの。でもそれは家族だからこそできることで、心の中には家族を想う気持ちが必ずある。

お母さんのお辞儀にも、母から娘へありがとうと、家族を想う気持ちが表現されています。でもそんな相手の愛が見える瞬間を、“口許は声を立てて笑っているのに、お天気雨のように涙が止まらなかった”と、湿っぽくなりすぎずに語るのがおかしくて。

真面目だし真剣なのにちょっと滑稽だったり、思わず笑ってしまうような愛くるしい両親の姿を、娘として決してばかにせず、でも強い愛でもない、ちょうど良いバランスの重たさと軽さの間で綴っているのがすごく好きです。

向田さんが思い出す家族の風景も、笑顔の家族団欒ではなく、お母さんのお辞儀みたいに、とても些細なこと。なんでもない家族との思い出が、実は美しくて尊いんだと気づかせてもらえる本です。」

二人の対談を聞いて、私が感じたこと

二人の「おかしい」、いかがだったでしょうか。私は、小谷さんが選んだ本の“ハナゲ”で笑い、大浦の選んだ一節で、ウルっとしていまい、感情が大きく動いたテーマとなりました。

しかも、二人が「おかしい」本を選んだ理由には共通点があって、ただ可笑しい・面白いだけではなく、人間であることの喜びが根底にあるのです。小谷さんは、人間の曖昧さや、ばかばかしさを「愛しい」と表現し、大浦は、家族との喧嘩に隠れた相手を想う気持ちを教えてくれました。

日々、家庭でも仕事でも、自分の不甲斐なさに後悔したり、家族と衝突して「どうしていつも、こうなってしまうんだろう」と自分を責めたりすることもあると思います。

そんな自分を、「曖昧なところが、人間の愛しさなんだよ」「怒ってしまうのは、相手を想う気持ちがあるからだよ」と包んでくれるような、心がキュッと切なく、でも温かい、そんなメッセージが込もったおすそわけでした。

ぜひ、二人のメッセージを心の片隅に、「おかしい」本を読んでみてください。私も、読んでみたいと思います。

対談の終わりに

三日間にわたって、「つよい・やさしい・おかしい」をテーマに、おすそわけしたい本をご紹介してきました。

「この本読んでみようかな」「あの人にプレゼントしてみようかな」など、みなさまの心に少しでも何かを残せていたとしたら、これほど嬉しいことはありません。

今回ご登壇いただいた作家・小谷ふみさんの著書『よりそうつきひ』も、誰かにおすそわけしたくなるような本。手にとってくださる方を想像しながら、制作の歩みを重ね、ついに先週から、当店のオンラインショップにて販売を開始しております。

本のみを購入できる一般販売と、当店オリジナルブックカバーとポストカードセットが付いたプレミアム販売をご用意しています。

また、あなたの大切な人に当店から「よりそうつきひ」を一冊プレゼントする、「つなごう言葉のともしびキャンペーン」も数量・期間限定で開催中です。

よろしければぜひ、お手にとってみてくださいね。

お知らせ

心がひとりぼっちになった時、そっと言葉で明かりを灯してくれる本、当店オリジナル、作家小谷ふみ著書「よりそうつきひ」が発売となりました(ご購入はこちらから)。 どこか切なくて、寂しくて、愛しくて、ホッとする。なんでもない一日を胸に焼き付けたくなるようなショートエッセイが束ねられた短編集です。読んでいると大切な人の顔が心に浮かんでくる世界が広がっています。

この記事を書いた人:

よりそう。のスタッフ。お店のSNSを担当。 数年ごとに住みかを変える転勤族。いつか森の湖畔にある、小さな家に住むのが夢。InstagramやPinterestで、素敵な画像を集めるのが趣味。
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いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

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