よりそうつきひ

五感を開いて今を感じたくなる、本との出会いをおすそ分け。

こんにちは。スタッフの小栗です。

本は自分のためだけでなく、贈り物にもできる。今日の晩ごはんがおいしくできたから、お隣さんにちょっとおすそわけするように、良い本との出会いも誰かにお届けしたい。そんな気持ちで、作家・小谷ふみさんと店長大浦が本を選びました。

テーマは「つよい・やさしい・おかしい」。これは小谷さんが著書『やがて森になる』を出版する時に、大切な人からいただいた言葉です。

この言葉をお借りして、それぞれのテーマに合った本を、おすそわけしたい一節を紹介しながらお届けします。

対談は予想もしなかった展開に

とある日、小谷さんと大浦はテレビ電話でこのテーマについて対談しました。実は、対談の当日まで、互いに選ぶ本の内容を秘密にしていたのですが、予想もしなかった展開が広がることに!

たくさんの共通点がみつかった2人の選書、今日は「つよい」をテーマにした本を紹介します。

 

▶︎小谷さんがおすそわけしたい「つよい」本

『庭仕事の愉しみ』(草思社文庫)
ヘルマン・ヘッセ

おすそわけしたい一節:

(「庭にて」より)
すべてのものが決まった時期にちゃんと成長し、芽を吹き、花を咲かせ始めることが、なんと簡単に、当然のことのように起こるものかと感嘆してよろこぶ。

どんな植物も、土から生まれたと同じく、ひそかに、確実に、土に還ってゆく。

この地上の人間だけが、この循環に不服を言い、万物が不滅であるということだけでは満足せず、自分たちのために、個人の、自分だけの、特別なものをもちたがるというのはなんと不思議なことであろうかと、思うことがある。

(「夕方はいつもそのように…童話断片」より)
太陽と草花は彼の時計で、彼に正確に時刻を告げ、雲とミツバチは彼に天気予報を予告し、小鳥たちは彼に季節と世界の日々の出来事を話してくれました。

小谷:
「この本は、エッセイ・詩・小説・童話・手紙など、ヘルマン・ヘッセが書いたものの中から、植物にまつわる作品が集められています。

紹介した一節、“太陽と草花は彼の時計で、彼に正確に時刻を告げ、雲とミツバチは彼に天気予報を予告し、小鳥たちは彼に季節と世界の日々の出来事を話してくれました。”にも書かれているように、宇宙・天体・植物など、自分よりももっと大きくて、確実に時を刻む存在に耳を傾ける姿に、今回のテーマ『つよい』を感じます。

ヘッセの愚痴や、戻れない少年時代への未練も書いてあるので、読んで明るい気持ちにはならないですが、日頃コンクリートの上で歩いているだけでは気付かない、“土が刻むリズム”を思い出させてもらえるのです。

確実に時を刻むというのは、つまり『全てはいつか終わる』ということ。それでもただ生きる植物の強さ・たくましさに、生きるヒントをもらえます。」

土に触れながら、人間の生き物としての本能を思い出す

小谷:
「この本を読むと、土いじりをしながら土の匂いや温かさを感じて、人間の生き物としての本能を思い出したくなります。もともと私自身、手が汚れる土いじりは、あまり好きではありませんでした。

でも30,40歳を過ぎた頃から、花が咲いているのを見るだけで涙が出るようになって、子供の頃には感じなかったものを、すごいな、美しいなと思うことが増えて。

子供から大人になるということは、失うことばかりではない、敏感になることもあると実感しています。温暖化でも燕が戻ってくる、そんな当たり前すぎて目もやらなかったことの素晴らしさ尊さが、一周回って分かるようになってきました。

人間も言葉を話すだけで、土に生えているものなんだと思います。コンクリートの世界に息苦しくなったら、都会に住んでいると難しいけれど、小さな植木の土に触れてみるだけでも違うかもしれません。私もいつか、太陽と草花が時計みたいな生活をしたいなと思います。」

 

▶︎大浦がおすそわけしたい「つよい」本

プラテーロとわたし』(理論社)
J.R.ヒメネス

おすそわけしたい一節:

(「白い蝶」より)
夕もやがたちこめ、むらさき色の夜のとばりがおりはじめる。みどりとフジ色のほのかな光が、わずかに教会の塔のあたりに、ただよっている。坂道は、影と、鐘の音と、草のかおりと、歌と、疲れと、あえぎとで満ちあふれる。

大浦:
「装丁や挿絵もすごく可愛い本です。詩とエッセイの中間のような形式で、ロバと主人公が季節を共に歩んでいく中で見た景色が、淡々と綴られています。」

五感を大きく開いて世界を享受する

大浦:
「状況描写がとても美しくて、光、花の影、香りなど、五感を大きく開いて世界を享受する気持ちの良い言葉が並んでいます。

この本を読むと言葉の海の中に溺れていくような、自分と周囲の境界が薄れていくというか、自分と周りのありとあらゆるものが溶け合っていくような感覚を覚えます。

すると、ここで生きていることの美しさ、尊さ、素晴らしさがひしひしと感じられて、生きる力が強く湧き出てくるのです。

忙しい毎日を送っていると五感を閉じたり鈍くしたりして過ごしているけれど、こういう風に世界を受け止めて、気づくことが出来たら、人って強く生きていける。そう思います。」

二人の対談を聞いて

いかがだったでしょうか。この対談を聞いて、二人の「つよい」は、「地に足がつく」実感のことかもしれないと感じました。

対談では、宇宙や自然など、人間を超えた大きな存在が出てきましたが、私自身も、1年程前から二十四節気を参考に、季節の流れを確認する時間を持つようになりました。刻々と変化する地球の流れを感じることで、なんだかほっと安心できるからです。

あらゆる物事のスピードが速い情報化社会の中で、立ち止まって、周囲で起こっている1つ1つをじっくり観察すること、世界はずっと昔から同じリズムで動いているのを感じること、そうやって自分がここにいることを確認していく。

その私が感じていた安心感を、小谷さんと大浦がどちらも「つよい」と表現したのは、とても面白く新鮮でした。なんだか二人には通じるものがあるようで、本人たちも「『つよい』にはいろんな切り口があるだろうけれど、同じものを見ているね!」と驚き合っていたほど。

情報化社会とのバランス

ただ、情報化社会を否定するわけではありません。小谷さんも、対談の中で、こうおっしゃっていました。

「携帯電話の中には、無数の言葉や人と人との繋がりが詰まっていて、そこから芽が出るという意味では、土と一緒だと思います。土も雑草を抜いたり肥料をあげるように、携帯の中の情報にも雑草があって、その中から自分にとってのお花を見つけ、育てる。その作業は一緒です。」

情報化社会の恩恵はありがたく活用しながら、時にはスマホから離れ、自分を超えた存在を眺めてみる。その適度なバランスをとっていくことが、大切なのかもしれません。

なので、今日ご紹介した本を誰におすそわけしたいかと聞かれたら、私は「頑張って働いている友達」と答えます。

毎日、朝早くから夜遅くまで一生懸命働いている彼・彼女が、この本を読んでいる数分の間だけでも、ほっと一息ついてくれたらいいな、周りにはいつも、美しい世界があるんだよ、という気持ちを込めて。

さて、明日は「やさしい」をテーマに、小谷さんと大浦がおすそわけしたい本をご紹介します。冒頭でお伝えした驚きの展開が起こったのは、対談で二人が「やさしい」本を発表した時でした。どんなサプライズが起こったのでしょうか。

つづく

お知らせ

心がひとりぼっちになった時、そっと言葉で明かりを灯してくれる本、当店オリジナル、作家小谷ふみ著書「よりそうつきひ」が発売となりました(ご購入はこちらから)。 どこか切なくて、寂しくて、愛しくて、ホッとする。なんでもない一日を胸に焼き付けたくなるようなショートエッセイが束ねられた短編集です。読んでいると大切な人の顔が心に浮かんでくる世界が広がっています。

この記事を書いた人:

よりそう。のスタッフ。お店のSNSを担当。 数年ごとに住みかを変える転勤族。いつか森の湖畔にある、小さな家に住むのが夢。InstagramやPinterestで、素敵な画像を集めるのが趣味。
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いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

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