food letters 〜料理家・cayocoさんの食を巡る旅〜

【food letters|夏・小豆島編】第2話 味に優劣はない。「おいしい」は自分の「好き」に出会えたこと

料理家cayocoさんが、春夏秋冬の旅を通じて人・食材・土地と出会い、その土地の保存食をバトンに食と人をつなぐプロジェクト「food letters」。夏の小豆島への旅の記事です。前回の記事はこちらからご覧ください。

一本目のオリーブの木

山田さんのオリーブの畑の一番手前には、オリーブ栽培をゼロからスタートした、その一本目のオリーブの木が植わっていました。悠々と枝をしならせるその風格はまるで「長老」のよう。

「迫力が違いますね。」

目を大きく見開きながら木を見上げるcayocoさん。この木からの実の収穫量は約20kg。他の木の平均は5~10kgとのことだから、堂々たるその違い。「台風で一度倒れたこともあるんだけどね。」そう言いながら、木の足元をなでるように触れる山田さんのその手は優しくて、この木がそれでも命を枯らさなかった理由がわかりました。

「おいしい」は
自分の「好き」に出会えたということ

山田さんのオリーブ畑には、オリーブの木の他にもレモン、すだち、ベルガモットなど柑橘系の木も並んでいます。オリーブの実と一緒にそれらの皮を削って搾るとフレーバーオイルに。ベルガモットは去年一番の売れ筋だったそうで、ヨーグルトやバニラアイスに合わせるとフルーティな楽しみ方ができるとのこと。

今オリーブオイルの世界では、オリーブオイルソムリエという資格があり、まだまだ少数ではあるけれどワインのように楽しむ静かなブームが生まれています。東京の有名デパートの地下食品売り場にはオリーブオイルの専門店も並ぶほど。

山田さんの奥様もソムリエの資格をもつ一人。そんな奥様の「ナッツや若草の香り」といった評価の言葉に、「こっちは地面這ってゾウムシを取ってるのに…」と心の中でボヤいていると、山田さんはちょっと悔しそうに教えてくれました。

味には優劣はなくてただ人との相性があるだけ、ときっぱり断言する山田さん。「ようは自分に合っているかどうかなんです。」

つまりおいしい、と感じるのは出会いのようなもの。自分の「好き」に出会えたということ。

そして山田さんはこう続けます。「ランキングをつけるソムリエのような人に評価されるものをつくれるのが職人。だから『やってやる』って思ってるんです。」

競合他社を否定しない大らかな姿勢

「やってやる」ために、工夫や努力を積み重ねている山田さん。三千年というオリーブの歴史をもつイタリアから職人を招き、厳しいアドバイスを受けながらも真摯に言葉を受けとめ、剪定を変えていったり、日本にはまだほとんど入ってきていない希少品種の有機栽培にも挑戦中。それは300本育てて3本だけ実がつくという、約20年かけて挑む超難題。

山田さんの向上心の熱はとてつもなく熱い。それでいて謙虚で冷静な顔も時折見せるのです。

例えば小豆島の他のオリーブ園の話になった時のこと。いわば競合他社の話。それなのに山田さんは朗らかに笑いながら「私は恩恵を受けているから、それぞれのやり方でどんどんやってほしいと思っています」と全く否定しない大らかな姿勢。

山田さんは木に話しかけたりしますか?」

取材の中で一つ印象に残る質問をcayocoさんは投げかけていました。それはこんな言葉。

「野菜農家さんのお話をお聞きすると、野菜を自分の子どものように話しかけたりする方もいらっしゃるそうなんですが、山田さんは木に話しかけたりしますか?」

ちょっと苦笑いしながら、「疲れている時はひとり言みたいに話してるかもなあ」と山田さん。果樹農園と野菜農園の大きな違いは、育てる“相手”がどこにも行かないということ。

365日、毎日見つめ続けながら、その木と年月を共に過ごすということ。雨風吹き荒れる嵐の日も、日射しが照りつける日も、豊かに実りをつけた日も。

畑の入り口にあった、あの一本目の木を植えた時、山田さんはどんなことを想ったのだろう。誰でも何かに挑戦をする時がある。けれど、挑戦し続けることははじめることよりずっと難しい。

学びに対する貪欲な心と謙虚な心

理想を語るのも聞くのも気持ちが良いもの。けれど「食える」レベルになること、人を喜ばせるものをつくること。そこに近づくためには、学びに対する貪欲な心と謙虚な心が必要。

「どうやって食っていくのか、身体と頭も必死でフル回転させる必要があるんだ。」

畑を出た後、やけに硬く感じるアスファルトを歩きながら、山田さんは最後にそんな言葉を私たちに話してくれました。

約2時間半の畑見学でぐっしょりと汗をかいた身体がぽっぽと熱い。でもこれは身体だけじゃなくて、心が受け取った熱のせいでもあるのは、どうやら間違いなさそうです。

写真:浅田剛司

つづく

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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