food letters 〜料理家・cayocoさんの食を巡る旅〜

旅のはじまりは、国内初有機オリーブ栽培に成功した小豆島・山田オリーブ園へ

料理家cayocoさんが、春夏秋冬の旅を通じて人・食材・土地と出会い、その土地の保存食をバトンに食と人をつなぐプロジェクト「food letters」。その旅とレシピを一冊にまとめた本が、当店より来年6月発売予定(先行予約受付中)です。

旅の伴走者として密着取材をさせていただいてる私たちは、これまで春の旅の様子と夏の旅のTwitter中継動画速報などをお届けしましたが、本日より全3回に分けて夏の旅の軌跡をお伝えします。

旅の案内人は、cayocoさんの友人りっちゃん

夏の旅の訪問先は、香川県小豆島。この島には、cayocoさんが8年ほど前に長野県にある穂高養生園という施設で働いていた時に出会った友人りっちゃん家族が暮らしています。りっちゃんはcayocoさんいわく「私の基盤」になっている人物。

姫路からフェリーで到着したcayocoさんを出迎えてくれたりっちゃん。「久しぶり~!」とハグを交わすcayocoさん。二人ともとっても嬉しそう。

今回の旅のテーマは「調味料の生まれる場所を知る」。旅の案内人であるりっちゃんに、オリーブオイル、醤油、塩の作り手の方に繋いでいただきます。

到着してひと息ついてから、早速本日の目的地へ。車道の右には山、左には海。その距離感の近さに圧倒されながら、夏の日射しが降り注ぐ島内を駆け巡る、暑くて熱い旅が始まりました。

国内初 有機JAS認定のオリーブ畑
山田オリーブ園へ

旅の一日目は、国内で初めてオリーブの有機栽培に成功した山田オリーブ園の山田典章さんの畑へ。太陽に向かってピンと葉っぱを伸ばすオリーブの木に囲まれながら、柔らかい土の上に置かれた椅子に座り、cayocoさんは山田さんの言葉に耳を傾けます。

山田さんは8年前に東京から小豆島へ移り住み、オリーブの有機栽培をスタート。毎年100本ずつ増やしていったオリーブの木は現在は全部で700本とのこと。収穫期を除いてはほぼ一人での作業、しかも独学でこの道を歩んできたとのこと。

元々農業をやろうと考えていた山田さんですが、オリーブの有機栽培に興味を持ちます。「先輩に聞くとみんな失敗していて『できない』と。理由はオリーブアナアキゾウムシに枯らされてしまうから。虫が好きだったので、逆にやってみようと思ったんです。」

目標は「3年で食えるようになること」

山田さんの移住当初の目標は、「3年で食えるようになること」。目標に達しない場合は東京に戻ることを家族と決めていました。だからこそ、他の大きな会社と同じことをやっていてはいけない。そう感じた山田さんは、「できない」と言われているオリーブの有機栽培をゼロから始めることを決めます。

有機栽培のために必要な土づくりと共に、ゾウムシの駆除を全て手作業で行っていきます。365日休むことなく、午前中の約4時間をかけて一人で全ての木をチェックします。

「これまで、ゾウムシを殺したことはないんです。捕まえて、生態を研究して行動パターンを予測しています。」

2~3年目でその研究の結果は当たるように。朝起きて、湿度や風向きで「あそこが危ない」とわかるレベルだとか。オリーブ園を始めて3年目、ようやく実がつき出来上がった商品は目標を無事達成。

ゾウムシは同志みたいなもん」

「オリーブがないと死んでしまう、オリーブに食わしてもらっている。だからゾウムシは同志みたいなもん。いつも探しているから見つけると嬉しいんです。」

はにかみながらそう話してくれる山田さんは、カゴに入ったゾウムシを優しく手で捕まえて見せてくれました。素人の目では、土や木の上では到底区別ができないその姿。

農薬を使用すると、ゾウムシ以外の何万匹という虫たちの命も奪うことに「ちょっとやりすぎ」だという山田さん。有機栽培は虫との「戦い」かと思いきや、ゾウムシが教えてくれるサインに耳を傾け、この畑で共に生きてきた山田さんの姿を見ると、どうやらそうではないよう。戦うのではなく、共生の道もある、と。

木も風も光も虫も、みんな一緒に生きている

この畑では、オリーブの木も、柑橘類の木も、雑草も、風も光も虫も、みんな一緒に生きている。昼過ぎの厳しい日射しの下なのに、ここはなんだか気持ちが良い。

ふとcayocoさんの横顔を覗いてみると、帽子を目深にかぶっているせいか表情が読み取れず。取材の同行者が多いこともあり、お話に興味津々な周りの姿を静かに見守っている様子。果たして、どんなことを想っているのだろう。その心の中は、もう少し先で明かされます。

一本目のオリーブの木

山田さんのオリーブの畑の一番手前には、オリーブ栽培をゼロからスタートした、その一本目のオリーブの木が植わっていました。悠々と枝をしならせるその風格はまるで「長老」のよう。

「迫力が違いますね。」

目を大きく見開きながら木を見上げるcayocoさん。この木からの実の収穫量は約20kg。他の木の平均は5~10kgとのことだから、堂々たるその違い。「台風で一度倒れたこともあるんだけどね。」そう言いながら、木の足元をなでるように触れる山田さんのその手は優しくて、この木がそれでも命を枯らさなかった理由がわかりました。

「おいしい」は
自分の「好き」に出会えたということ

山田さんのオリーブ畑には、オリーブの木の他にもレモン、すだち、ベルガモットなど柑橘系の木も並んでいます。オリーブの実と一緒にそれらの皮を削って搾るとフレーバーオイルに。ベルガモットは去年一番の売れ筋だったそうで、ヨーグルトやバニラアイスに合わせるとフルーティな楽しみ方ができるとのこと。

今オリーブオイルの世界では、オリーブオイルソムリエという資格があり、まだまだ少数ではあるけれどワインのように楽しむ静かなブームが生まれています。東京の有名デパートの地下食品売り場にはオリーブオイルの専門店も並ぶほど。

山田さんの奥様もソムリエの資格をもつ一人。そんな奥様の「ナッツや若草の香り」といった評価の言葉に、「こっちは地面這ってゾウムシを取ってるのに…」と心の中でボヤいていると、山田さんはちょっと悔しそうに教えてくれました。

味には優劣はなくてただ人との相性があるだけ、ときっぱり断言する山田さん。「ようは自分に合っているかどうかなんです。」

つまりおいしい、と感じるのは出会いのようなもの。自分の「好き」に出会えたということ。

そして山田さんはこう続けます。「ランキングをつけるソムリエのような人に評価されるものをつくれるのが職人。だから『やってやる』って思ってるんです。」

競合他社を否定しない大らかな姿勢

「やってやる」ために、工夫や努力を積み重ねている山田さん。三千年というオリーブの歴史をもつイタリアから職人を招き、厳しいアドバイスを受けながらも真摯に言葉を受けとめ、剪定を変えていったり、日本にはまだほとんど入ってきていない希少品種の有機栽培にも挑戦中。それは300本育てて3本だけ実がつくという、約20年かけて挑む超難題。

山田さんの向上心の熱はとてつもなく熱い。それでいて謙虚で冷静な顔も時折見せるのです。

例えば小豆島の他のオリーブ園の話になった時のこと。いわば競合他社の話。それなのに山田さんは朗らかに笑いながら「私は恩恵を受けているから、それぞれのやり方でどんどんやってほしいと思っています」と全く否定しない大らかな姿勢。

山田さんは木に話しかけたりしますか?」

取材の中で一つ印象に残る質問をcayocoさんは投げかけていました。それはこんな言葉。

「野菜農家さんのお話をお聞きすると、野菜を自分の子どものように話しかけたりする方もいらっしゃるそうなんですが、山田さんは木に話しかけたりしますか?」

ちょっと苦笑いしながら、「疲れている時はひとり言みたいに話してるかもなあ」と山田さん。果樹農園と野菜農園の大きな違いは、育てる“相手”がどこにも行かないということ。

365日、毎日見つめ続けながら、その木と年月を共に過ごすということ。雨風吹き荒れる嵐の日も、日射しが照りつける日も、豊かに実りをつけた日も。

畑の入り口にあった、あの一本目の木を植えた時、山田さんはどんなことを想ったのだろう。誰でも何かに挑戦をする時がある。けれど、挑戦し続けることははじめることよりずっと難しい。

学びに対する貪欲な心と謙虚な心

理想を語るのも聞くのも気持ちが良いもの。けれど「食える」レベルになること、人を喜ばせるものをつくること。そこに近づくためには、学びに対する貪欲な心と謙虚な心が必要。

「どうやって食っていくのか、身体と頭も必死でフル回転させる必要があるんだ。」

畑を出た後、やけに硬く感じるアスファルトを歩きながら、山田さんは最後にそんな言葉を私たちに話してくれました。

約2時間半の畑見学でぐっしょりと汗をかいた身体がぽっぽと熱い。でもこれは身体だけじゃなくて、心が受け取った熱のせいでもあるのは、どうやら間違いなさそうです。

つづく

写真:浅田剛司

つづく

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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