わたしをつくるもの

「失くしたもの、得なかったものの分だけ、 騒がしく、にぎやかになってゆく、 記憶という鳥かご。」第2回 鳥かごに咲くもの

「わたしと一緒に暮らそうよ!」

青とグレーのグラデーションが美しいその小鳥は、
鳥かごの向こう、できるだけこちら側に近づいて、
人懐こく、そう話しかけてくるようだった。

鳥かご越し、お話ししたり、指先で遊んだり。
しばらくの間、お店の鳥かごの前に通いつめた。

自分に、人に、暮らしに、疲れた時、
もの言わぬ小鳥や花に、
なぐさめて欲しくなる時がある。

昔、受験に失敗した時、心が折れた勢いで、
インコ2羽を飼ったことがあった。
1羽は、とても静かで、温厚な性格。
もう1羽は、攻撃的で、餌をやろうと近寄るだけで、
ギギッギっと柵に食いついてきた。
鳥かごの扉を開く時は、決死の覚悟だった。

もの言わぬものとの暮らしは、生傷が絶えなかった。
やたら長くてゴージャスな名前をつけたが、
お世話にスピードが要求されるため、
温厚な子を、ピー1(ピーワン)、
攻撃的な子を、ピー2(ピーツー)と呼ぶようになった。
そして、いつしか、小鳥の世話は母まかせに。

ある日、
鳥たちをぼんやり眺めていると、母の視線を感じた。
私「?」
母「……。」

そんなことが何度か続き、母が話しかけてきた。
「なんか気づいた?」
「なんかって、何?」
「ピーワンのこと。」
「ピーワン、え?何?…あ、あれ!?」

ピーワンに目をやる。この子は、ピーワン、…じゃ、ない。
よく見たら、ピーワンは、ピーワンではなかった。
そこには、他人行儀な別のインコ(つまりピースリー)がいた。

申し訳なさそうな母の話しによると、
ピーツーの攻撃をかわしながら、鳥かごを掃除していたら、
隙間からピーワンがすり抜け、開いた窓から逃げてしまったのだと。
春の風の中を探しに探した末、
仕方なく似たインコを買い求め、鳥かごの中へ。

なぜ、言われるまで、気がつかなかったのだろう…
ピーツー、ピースリーと暮らしながら考え続けたけれど、
気がつかなかった自分と目が合うことはなかった。

実家の納屋で眠るからっぽの鳥かごだけが、
そのすべてを知っている。

青い小鳥は、年末年始の休み明けすぐに、
誰かに買われていった。
「自分のものにしていたら、どうなっていただろう?」何度も考えた。
でも実際にそうしようとは思えなかった。

大人になり、
無邪気に欲しがることができなくなってゆくのは、
今はなき小鳥たちが胸の中さえずるから。

もの言わぬものたちはいつも、
鳴きながら、泣きながら、
咲きながら、揺れながら、
胸の内側から語りかけてくる。

そばにいるのに、
すり替わっても、気がつかないこともある。
近づけないほど、心すれ違ってしまうこともある。
よそよそしいまま、分かり合えないこともある。

「欲しがる前に、思い出して」

失くしたもの、得なかったものの分だけ、
騒がしく、にぎやかになってゆく、
記憶という鳥かご。

記憶の扉は、
いつも開いているけれど、
満ちた思い出が、
逃げることはない。

flower:つぐみ
photo:Takao Minamidate
撮影協力:toneri

<つづく(5/19公開)>


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この記事を書いた人:

もの書き。夫と息子とリクガメと、川沿いの丘の上で暮らす。 日常や世界、音楽や時間を、詩・エッセイ・翻訳にのせて。 代表作「やがて森になる」「月の光」。カレンダー「言葉なきものたちの12ヶ月」 他『扉の言葉』を書いたり、『名まえ』をつけたり。

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