春 福岡の旅

旅の偶然の出会いは、なんでもない風景を忘れることのない景色へと変える力がある。

料理家cayocoさんの食を人をつなぐ旅「food letters」春・福岡編、第一回目の話はこちら

保存食づくりは、だいだいポン酢

いよいよ旅でお世話になった人を招いて料理を振る舞う夕食会の日。午前中は、この旅の大きな軸でもある、保存食づくりをします。メニューは、旅の2日目に出会った地元の方から教えていただいた、だいだいポン酢。角さんのお祖母ちゃんのお庭からいただいた、だいだいを使います。

「皮は少しだけ干そうと思います。」朝から気持ちの良い日差しがさしていたこの日、浜の家の日向できらきらと橙色のカケラが光っていました。

「表情が一つずつ違ってかわいい」

まずは半分に切り、一つずつ手で絞っていきます。台所に並んだ、まあるいだいだいを眺めて「表情が一つずつ違ってかわいい」とcayocoさん。

「だいだいの香りはまるい匂いがします。柑橘類のかどがとれたような香りです。」

みかんとレモンの中間の酸っぱさ、とcayocoさんが表現するだいだいの味は、ポン酢づくりにぴったりのさっぱり感。

心を込めて料理をするということは、心を捧げること

実がつぶれる音と、汁が滴る音。春のはじまりの少しだけ冷たい、だけどほんのり優しい風にだいだいの香りが乗りながら。

そんな音と香りの中、無言でひたすらだいだいを絞っていくcayocoさんの後ろ姿は、料理家というより職人のよう。仄暗い台所の静けさと重なってどこか神々しく、神聖な儀式をしているかに見えてくるから不思議です。

心を込めて料理をするということは、心を捧げることでもあり、それは祈りに通じる姿でもあるのかもしれない。cayocoさんの後ろ姿を眺めながら、そんな想いがふと浮かび上がってきました。

「ばったり」な縁で、いざ菜の花畑へ

その日の朝、ごはんを食べていると角さんの元へ一本の電話が。お相手は農家の花田祐輔さん。昨日偶然出会って里芋をわけてくださった方で、今日の夕食会にもご招待しています。

電話の要件は、菜花の収穫をし損ねて花が咲いた畑があるとのこと。実は、春らしい風景の写真を撮りたいと思案していた私たち。なんともタイミング良く、またしても祐輔さんの「ばったり」な縁で菜の花畑への道が繋がりました。

「場所は実はよくわからないんですけど、とりあえず行ってみましょう」と角さん。保存食を作り終えたcayocoさんと私たちは、車に乗って菜の花畑を目指します。

きっとまた来年、菜の花が咲く頃に思い出す景色

畑の中を車で走っていると、突然一箇所だけ黄色に輝く一帯が。車を止めて降りると、胸の高さほどある菜花が一面に。まさに満開。

菜の花畑を歩くと、忙しそうに蜜を集める蜂の羽の音が耳に。桜より一足早く、春の訪れを告げてくれる無邪気な黄色の花は、風に吹かれて楽しそう。ゆらゆらと揺れるその姿は、太陽の光を浴びて眩しく光り、大きな声でこう叫んでいるようでした。

「春だよ!春がきたよー!」

旅の偶然の出会いは、なんでもない風景を、この先忘れることのない景色へと変える力がある。「ばったり」。それはどうしてこんなにも、心をひたひたと満たしてくれるものなのでしょう。

きっとまた来年、菜の花が咲く頃に思い出すこの景色とこの旅のこと。cayocoさんの手が握る菜の花のブーケは、二度と戻ることのできない、この瞬間をギュッと心に閉じ込めてくれているようでした。

写真:浅田剛司

つづく

この特集の目次

  1. 料理家cayocoさんの食と人をつなぐ旅 第1話「かわいい」と感じる目と心。そこにはいつだって愛がある。
  2. 人と同じように野菜に対しても、心を大切に置くこと。
  3. 旅先で心に沁み渡る、一日が穏やかに終わることの尊さ。
  4. 知らないって寂しい。知るって嬉しい。だから人は優しくなれる。
  5. 旅の偶然の出会いは、なんでもない風景を忘れることのない景色へと変える力がある。
  6. 料理はこんなにも人の心を伝えてくれる。
  7. 人が人を想う心は見えないけれど、本当はこの世界に溢れている。

館内放送

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この記事を書いた人:

「よりそう。」館長。時として編集長に変身し、ライターとして駆け回り、ドローンも飛ばしちゃいながら、訪れるみなさんをお出迎えします。好きな本は、稲葉俊郎『いのちを呼びさますもの』。好きな料理は、さつまいも料理。
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いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

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