おやすみの前に

【おやすみの前に】心がギュッと、抱きしめたくなるものがある。

宝箱

宝物が宝箱に入っていたことは、
一度もなかった。

いただきものの洋菓子のカンカンのなか、
従姉と交換した着せ替え人形。
バービー人形のガラスの靴。
母のお気に入りの鳩の箸置き。
どの指にも大きいビーズの指輪。
所構わず拾い集めた綺麗なツルツル石。

カンカンは、いつも抱えて走ると
がっしゃんがっしゃん音がなって、
私がどこにいるかすぐに分かったと言う。

宝物は、いつだってその時々の自分そのものだった。
カンの中の「小さな私」たちは、
どこへいってしまったのかとふと思い出す。
ヤドカリのように、住まいを転々としながら、
みんな静かに心の奥へと溶けていったよう。

この夏でまたひとつ歳をとった。
誕生日プレゼントは、
ガーデニングストアの売れ残りコーナーで見つけた、
『3点で半額』というアラカルト。

涙色の一輪挿し。
ツバメのキャンドルスタンド。
小花柄を散らしたソーサー。

みんなが素敵と思わなくて、よかった。
誰も選ばなかった3つが出会い、
新たな歳の物語を得ることができた。

ツバメの流した涙が、
花の命の一滴となり、
また新たな花が茂る。

心がギュッと、抱きしめたくなるものがある。

カンカンにしっかり詰めて、
がっしゃん、がっしゃん。
大きくゆったり歩いてゆく。

私がどこにいるか、分かるように。

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この記事を書いた人:

もの書き。夫と息子とリクガメと、川沿いの丘の上で暮らす。 日常や世界、音楽や時間を、詩・エッセイ・翻訳にのせて。 代表作「やがて森になる」「月の光」。カレンダー「言葉なきものたちの12ヶ月」 他『扉の言葉』を書いたり、『名まえ』をつけたり。

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