石垣島移住日記

【石垣島移住日記】どこで暮らそうと変わらない、生きることの本質にある「問い」。

<前回の記事はこちら>

自然に深く接して暮らすならば、ただ自然との融和を夢見るだけでは生きていけない。自らの力で自然を切り払い、自分の立ち位置を得なければならない。

竹富島での生活を経て、僕はそのことを思い知った。

そこでまた、疑問が湧いてきた。
自然を切り払って立ち位置を得ること、それってまさに「都市」が行ってきたことじゃないか。
都市にも、確かに自然とのせめぎ合いがあったのだ。それなのに僕はどうして、「都市においては生活と自然とが明確に切り分けられていて摩擦が生じない」と思っていたのだろう。

都市では、誰かが代わりに自然と対峙してくれる。

誤解を避けるために確認しておく。
僕が言う「自然を切り払って立ち位置をつくる」ことは、何も山野を削ったり海を埋め立てるような規模の話ばかりではない。伸びすぎた庭木を伐る、雑草を刈る、部屋に入ってきた虫を殺す。そういった些細なことも含め、この生態系の中で他の存在に働きかけて、自分が生きるということだ。

僕が都市生活において、そういった自然への働きかけをせずとも快適に自らの立ち位置を得られてきたのは、常に「他の誰かがやってくれていたから」だ。
マンションの敷地の手入れは管理人さんが、害虫を駆除しながら野菜を作るのは農家の方が、土地を均して宅地造成するのは行政が、いつもやってくれている。
恥ずかしながら僕はそのことを忘れて、あるいはそもそも気がつかずに暮らしてきた。だから自然とは境界線の外側にあるもので、余暇において接するものだと思ってきた。

僕が竹富島で揺るがされた価値観ーー「自然はただひたすら守り、敬うべき存在」という考えは、そんな中で培われてきたものだった。
いつも誰かが代わりに自然と対峙してくれている。だから僕は、安心して「相手方」である自然に声援を送るだけでよかったのだ。

「奪うこと」と「守り敬うこと」のはざまで。

「安心して」ーーそう、まさに安心していた。

自然を守り、敬うこと。それ自体には、異論をさしはさむ余地はない。
人間が自然に与えているインパクトの大きさを考えれば、当然のことだろう。
これは至上命題として、安心して持っていてよい自然観だった。

けれども今や僕は、生きるということがそれ自体自然を切り払い、立ち位置を得ることだと思い知らされた。それは自然に囲まれたここ石垣島でも、都市での暮らしでも同じ。違いは、自らが直接対峙する必要があるかどうかということだけだ。

守り敬う自然観と、生きるために切り払うこと。
あい対する両者を納得ゆく形で成り立たせるためには、もはや安心して前者を奉じるだけではいけない。
どこまで切り払い、奪うのか。どこから守り敬うのか。

これを二元論として考えるのは簡単なことだ。どちらかの考えを奉じれば、それに従ってあらゆる局面で悩むことなく判断を下してゆことができる。
けれども、生きるということはそんなにラクなことでも、簡単なことでもない。相反する価値観のはざまで、どのように考え、判断を下し、振る舞うのか。

どこで暮らそうと、それを問い続けることこそが生きるということの本質なのだと思う。

水の中で魚たちが教えてくれること。

少し抽象的な話に終始してしまったので、最後に具体的な情景に触れておきたい。

昨年の夏、僕は岡山県のとある水路でブラックバスを見かけた。ブラックバスは北米原産ながら日本全国に定着し、在来の小魚を食い尽くすとして「侵略的外来種」に指定されている魚だ。

僕はその水路の豊かな小魚たちにとても惹かれていたから、彼らの脅威となるブラックバスがそこにいること自体がショックだった。けれどもそれ以上に驚きだったのは、小魚たちがブラックバスのすぐそばで群れ佇んでいることだった。食う・食われるの関係にある両者が、同じ空間にあって安穏と過ごしているというのは、いったいどうしたことだろう。

それと似た光景に、石垣の海の中でも何度も出会った。肉食魚のすぐ近く、十分に接触可能と思われる至近距離で、小魚たちは悠々と舞い泳いでいた。

「食う者」はむやみに食い尽くさず、また「食われる者」も食う者からの完全な断絶を望まない。
「自ら生きるために必要な分以上は奪わない」という自然のルールの下で、両者は常に接しながら生きている。

その姿は、「奪うこと」と「守り敬うこと」の調和を、僕に無言で教えてくれているようだった。

<完>

おすすめ

作家・小谷ふみさんの書籍を出版し、売上の10%を入院中の子どもたちを支える団体へ寄付するプロジェクトに向けた、クラウドファンティングを実施中です。こちらよりぜひ一度ご覧ください!


料理家cayocoさんが、春夏秋冬の旅を通じて人・食材・土地と出会い、その土地の保存食をバトンに食と人をつなぐ「food letters」、その旅とレシピ本の特典付き先行予約が始まりました!詳しくは、こちら


オンラインショップではよりそう。でしか買えないアートグッズやお花を取り揃えています。こちらよりぜひ一度ご覧ください!

この記事を書いた人:

魚譜画家。魚と水の生き物の絵を専門に描いている。学生時代は現代思想を学び、卒業後は一貫して「伝える」「表現する」ことに傾倒。東京のコミュニケーションデザイン会社にてディレクターを勤めた後、2016年4月から石垣島にて画家活動に専念。

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocket
  • Lineで送る

記事への感想を送る

いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

お名前 (必須)

メールアドレス (必須)

メッセージ

このフィールドは空のままにしてください。