石垣島移住日記

【石垣島移住日記】「境界線は明確でなくていい。」都市生活とは異なる、自然との付き合い方。

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石垣島へ移り住む前、僕は11年間を東京で過ごした。その前は大阪と京都で都合22年間だから、自然にめりこむような環境で生活するのは生まれて初めてということになる。

都会での暮らしにおいて、自然は憧れであり、可能な限りそこへと回帰すべき場所であり、また敬意を持って接するべきものだった。自然との触れ合いを適度に取り入れることが、ハイソサエティなライフスタイルの条件であるようでもあった。

石垣島での暮らしを多少なりとも経験したからといって、そういう都市生活における自然との付き合い方を笑うつもりは一切ない。
僕の発見はあくまで、自然との付き合い方を通じて、長い都市生活で培われた自分自身のメンタルの形を客観的に見直すということだった。

竹富島の中でも、とりわけ古くからの姿を残す家。

石垣島へ移り住んで2週間。虫やヤモリやカビといった、些細ではあるけれどそれまで経験がなかった自然の圧力を初めて味わって、疲弊した気持ちで僕は竹富島へ向かった。

滞在先は、八重山の文化を今なお色濃く剥き出しに残す竹富島の中でも、とりわけ古くからの姿を保ったお家。
家主の方は竹富島と横浜とを行き来する生活をされていて、その方にとって数ヶ月ぶりの今回の滞在に、僕は島に入るタイミングからご一緒させていただくことになっていた。

竹富島へは、石垣港から船で15分足らず。
サンゴの砂が敷き詰められた道をザクザク歩いてお家に辿り着くと、まずは数ヶ月のあいだ閉ざされていた板戸を開け放つことから作業が始まった。

最近は竹富島でも少なくなった、サッシのない溝切りだけの板戸。内側からしっかりと紐で結わえられているのをほどいて、一枚ずつガタガタと開けていくだけでも意外に時間がかかる。
ようやく家の四面が開け放たれ、風とともに光が家の中へと導かれると、この数ヶ月で隙間から吹き込んだ砂粒と、屋内で力尽きた虫たちの死骸がはっきりと見えるようになってくる。

それを掃き出して拭き掃除をしているうちに、南の島の長い日は暮れていった。

自然からの「圧力」を受け流す生活。

家主の方のご意向で、エアコンはもちろん扇風機もない。けれども暑さに参らないだろうかという心配をよそに、板戸を開け放てば遮るもののない家の四方からは常に風が吹き抜けて、不快な暑さを感じることがない。

夜に灯す明かりは「星を見るのに邪魔にならない程度」。それでもたとえば本を読むのに困らないし、何より煌煌と明かりを灯せばむやみに虫を呼び込んでしまう。夜、家の中が暗いことはここでは理にかなっている。

また、それでももちろん虫はやってくる。家に棲みついたヤモリたちが餌に困らない程度には。ときには都市生活でも見かける「あの」嫌われ者もやってくるけれど、開け放たれた家にはとどまるところがない。いろいろな虫たちが夜闇に紛れてやってきて、またいつの間にか出て行く。

つい数日前まで、自然からの小さな圧力に神経をすり減らしていたのを忘れてしまうほど、竹富島のお家はそれらを心地好く受け流してしまうのだった。

「境界線をなくす」作法の発見と疑い。

「家の内と外との境界線は明確でなくていい、夜は家とて闇でいい」。
それは僕には大きな発見で、石垣島へ戻った後に改めて生活を組み立てる上での頼もしい指針になった。

はっきりした境界線は、「私(の日常生活)とあなた(自然)は違う」と主張する。都市生活ではその境界線が容易に成り立つから、間に摩擦を生じさせずにおくことができる。僕たちは自然に対して圧力をかけつつも、敬意を持って接し、また享受できるだけの余裕を持つことができる。

けれども、境界線をなくしてしまい、動きを合わせることで「私とあなた」の間の摩擦を解消する手もあるのだ。竹富島での数日間を経て、僕はそのことに気がついた。

そしてこれは、都市生活の作法に馴染んだ僕に新たなものの考え方をもたらすものであると同時に、「境界線を排して融和する」というやり方の理想論めいた気配への疑いを生じさせるものでもあった。

その疑いへの答えもまた、僕は竹富島での生活から見い出すことになる。

つづく


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この記事を書いた人:

魚譜画家。魚と水の生き物の絵を専門に描いている。学生時代は現代思想を学び、卒業後は一貫して「伝える」「表現する」ことに傾倒。東京のコミュニケーションデザイン会社にてディレクターを勤めた後、2016年4月から石垣島にて画家活動に専念。

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