人生の思い出箱

【人生の思い出箱】霧の中を彷徨うようにもがいていた頃の自分は、心に欠かせない存在だったルドン

暗闇を彷徨っていた時代に出会った、オディロン・ルドンの絵

こんにちは、店長の大浦です。

上の写真は、今から10年以上前の姿です。右に進むべきか、左に進むべきか。人生の行き先を完全に見失っている時期のこと。少しでも自分の進むべき道のヒントがほしくて、もがきながら必死に私が手を伸ばした先は、絵画教室のドアでした。

就職活動を始めたあたりからハマってしまった美術館巡り。何が面白かったかというと、色をみるのが面白かったのです。絵の主題やモチーフに興味があるわけではなく、ひたすら色をみては、その奥深さや力強さ、繊細さに心を震わせていました。

絵を描きたい、というよりも、色を作りたい。そんな動機のような衝動に耳を傾けてくれたのは、地元にある小さな絵画教室を営む、無口でシャイなO先生。絵画教室を探し始めて、いくつか体験レッスンを受けたみたものの、「そうじゃありませんね」と構図も色も自由気ままに描いた絵を消されて、心が折れそうになっていたところ、たまたま辿り着いた教室でした。

「きっと、大浦さんは好きだと思いますよ。」

O先生がそう言いながら教えてくれたのが、オディロン・ルドン。ルドンは19~20世紀のフランスの画家で、少し不気味な幻想世界を描いた木炭画の作品が残されていますが、人生の後半には色彩の世界が爆発しています。確か人生の伴侶となる女性と出会ったからだったとか。そんなルドンの絵は、美しい色彩の中にも暗い空気が漂っていて、私は一気に惹き込まれていったのです。

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美しさの中には暗さもある
根暗な自分が救われた、ルドンの絵

「ああ、もうなんで!」と唸りたくなるほどに美しい色彩の海に溺れながらも、どこか悲しそうな目、不安定な構図、その拭えない影に惹かれた理由は、「美しさの中には暗さもある」と言ってくれているような気がしたからかもしれません。

「前向きに生きていこうよ!」というポジティブ・シンキングがいつからか苦手で、どうしてネガティブなことを考えたり言ったりしてはいけないんだろう、と根暗な自分を正当化したかったのか、いつもそんなことを考えていた当時の私。そんな自分の気持ちにぴったりはまったのが、ルドンだったのです。

図書館で大きな画集を借りてきては、会社から帰ってきてひたすら眺めるような日々もありました。絵の端っこから少しずつ少しずつ目線を動かしていく。じっくりと味わうその時間は、どこへ進むべきか悩みつづけている闇の中の自分を忘れさせてくれていたように思います。

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もがいていた頃の自分は、心に欠かせない要素

絵画教室を辞めて、色も作らなくなり、言葉を届けるという自分の道をみつけてから、久しぶりにルドンを見に行く機会がありました。

相変わらず、心は奪われました。

修道院の壁画として描かれたという、高さ3メートルほどの作品と対峙した時。作品の前に立って、ぐんと見上げるようにして眺めると、美しい、けどやっぱりちょっと悲しくなるような影を感じたのです。そして霧の中を彷徨うように、もがいていた頃の自分が、ふと心に浮かび上がってきました。

必死に色を作りながら、からっぽな自分に焦って苦しくなっていた20代の私。今はもう、あの時ほど自分に絶望もしていないし、自分を否定して生きてはいません。

けれども、今でもあの頃の私は、自分の内側で生きているように思うのです。深く傷ついたり、重く苦しんだりした経験は、消えていくのではなく、浄化されて心をしっかりと支える側に回っていたりする。もしかすると、自分の心を形づくる上で、欠かせない要素にさえなっているのかもしれない、と。

「私は芸術は無用だと考えたことがある。おそらくこれは必要なものだ。」
−オディロン・ルドン『私自身に』

ルドンはこんな言葉を残しています。

自分の歩んできた道、歩んでいく道を自問自答することに、たとえそれが苦しくても、それでいいんだよ、と言ってくれているかのよう。過去の自分へ「それでいいんだよ」と、できることならば伝えたい。それができないからこそ、あの時の私に重なる誰かを支えたいという想いが、「よりそう。」という場所づくりの原点となっています。

誰かの心に寄り添うように。そう想いながら、今日も明日も言葉を届けていきます。

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参考文献:
「ルドンとその周辺」展カタログ、2011年、中日新聞社

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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