ドキュメント“ものをつくるということ”

「もっとみてごらん」。人の好奇心を揺さぶる、魚の絵に込められている想い。(魚譜画家・長嶋祐成インタビュー前編)

魚譜画家・長嶋祐成さんを、ひと言で表すと「みる人」。それは「視る」。あるいは「観る」。一匹の魚の目の表情を、注意深く、つぶさにみている。魚の後ろに広がる、何億年という時の流れを、俯瞰してみている。

みることは、きっと誰もが当たり前としている動作で、起きている時は何かしらを見ているはず。けれども、何かを「観る」あるいは「視る」ことは、ただ「見る」こととは大きく違う。それは、自分の頭と心を映すことだから。

「もっとみてごらん」。

長嶋さんが描く、水の中で暮らす、美しく、強く、愛らしい生き物をじっと眺めていると、そんな声が聞こえてくるのです。

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「人がもっと自信をもって生きていければいい」という想い

長嶋さんは、2012年より自身のHP「魚の譜(うおのふ)」で絵と文章を公開。それからの4年間、金曜日の18時、毎週ほぼ欠かさず作品を発表し続けています。
2015年は個展の開催、本やハンカチのモチーフ、水族館への絵の提供等、活動の幅が大きく広がり、今年の4月からは2年という期限付きで石垣島に移り住み、これまで会社員の傍ら続けてきたこの活動を本格的に進めていくそうです。
それは長嶋さんの言葉を借りるならば「魚好きで食っていく」ということ。過去のインタビューでは「自分が好きなことに本気で取り組むことがこわい」と言っていた長嶋さん。いざ自分の「好き」で生きていくこと決めた時、浮かび上がってきた自分の姿を、笑いながら面白い例えで話してくれました。

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これまで自分の武器と思っていたものが、妻をはじめいろんな方から借りたり紹介してもらって手に入れた武器だったことがわかったんです。錆びてボロボロになっている自分の武器が奥の方にあって、それをもってこれからは生きていかないといけないと感じています。」

錆びてボロボロになっている自分の武器。それは、学生時代から胸の中に持ち続けている「人がもっと自信をもって生きていければいい」という想いと言い換えることができるようです。その想いをもつきっかけは、生きていくことが辛いと感じていた学生時代に、あるがままの自分を受け入れることができる考えに辿りつけたから。その原動力は、幼い頃から自分を認めてくれていた母親の存在が大きいのだそう。

「ありのままの自分を認めるって最強だ」。自分の好きに飛び込むことを決めた時に、そんな過去の自分が握りしめていた武器のことが浮かび上がってきたという長嶋さん。過去から現在へ結びついている、自分の足跡をこう紐解きます。「どうやったら人が自尊心をもつことができるか、生きていく上でのテーマになっていて、魚より根本にあるものだと思う。自分にとってのその現れが、魚なんだろうなと。」

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魚に限らず、身近なものに楽しみをみつけることのほうが伝わってほしい

みる。
恐らく長嶋さんは魚のことだけでなく、人のこと、社会のことも、みているようです。例えば、インターネット上で顔の見えない人同士が、責め合ったり、叩き合ったり、裁いたりしている様子のこと。

「みてて思うのは、自分に自信がないからかなって。子どもの頃から、大人になってからでもいいだけど、自信をもつ経験があればいいと思う。
人のために生きているわけじゃないし、自分のために生きているのであって、自分に満足していたらその分、人に優しくできるんじゃないかな。」

根っこにみえてくるのは、満たされていない、あるがままの自分を認める心。「ありのままの自分を大切にしよう。」そんな言葉は、もしかすると、誰もが聞き慣れているかもしれないけれど、それを体感するには、まずは自分の心の動きに耳を澄ますことが大事だと、長嶋さんの絵は教えてくれているようです。

「僕の絵をきっかけに魚を好きになってもらうのは、もちろん嬉しいし目標でもあるんだけど、魚に限らず、身近なものに楽しみをみつけることのほうが伝わってほしい。」

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いつものスーパーで並んでいる鯖の、少しタレた目に、背中の虫喰い模様に、お腹のふくらみに、ふっと愛しさが湧いてくる。
目に映るあらゆるものは、開かれている。そこに何をみるか、どうみるかは、その人次第。

「もっとみてごらん。」

一枚の鯖の絵から、そんな声がみえてくる。そして心は、動き始めるのです。
後編へ続く)


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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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