自分の心のためにできること

心の眼と芽を開く、表現アートセラピーの基本知識

表現アートセラピスト山口さんから学ぶ「自分の心のためにできること」。今日は表現アートセラピーとはどんなものなのか、その世界の一部を覗いてみたいと思います。

心の眼と芽を開く、表現アートセラピー

大浦
表現アートセラピーというのは、音楽、文章、ダンス、絵画などを通して「心の眼を開く」セラピーとも言われていますよね。

山口
そうですね、よく心の扉を開くとも言われますね。眼というのは体中にあって。心だけでなく毛穴も開くぐらいな気持ちです(笑)。眼というのは、芽とも言えるかもしれません。

大浦
眼と芽、両方が開いていく。

山口
人によってきっかけというのは違うので、セラピーのワークをするときには、触れる琴線が十人十色になるように場を調えます。例えば、ワークショップするお部屋には、私は必ずセイクリッドスペースというのを真ん中に置きます。これは、初めての場に安心していられる大事な空間づくりのひとつですが、参加される方は、そこに眼を向けた瞬間から、それぞれの内面の旅がスタートする小さくも大きな仕掛けなのです。

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大浦
緩和剤のような存在ですか?

山口
そういう効果もありますが、心の眼を開く準備でもあるんです。今日も、前日に娘と一緒にお花を生けて用意しました。

大浦
こういうのがあるだけで、心を小さくコンコンってされるような気がします。

山口
そう、コンコンですね。例えば、いきなりコンコン、泣いてごらん、と言うのではなく、ピアノで音をポーンと一つ弾く、すると心が広がって、ふわっと涙が出てくる。そういうことがセラピーの場では起きるんです。

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セラピストは心が整う瞬間に立ち合う存在

大浦
表現アートセラピストは、ワークショップで具体的にどのようなことをするんですか?

山口
セラピストは役割がいくつもあって、黒子になることもあれば、目の前に行ってコンコンってするときも必要だったりするし、正面を向かずに待つこともあるし。

セラピストとクライアントの関わりは、家族関係にも似ていて、近くなったり遠くなったり、姿があったり消えたりするけれど、セラピーの体験がどこかにあって安心するお守りみたいなものになっているかもしれません。

大浦
確かに、以前山口さんのワークショップを体験した時、その時に聞いたピアノや鈴の音が、妊娠中のつわりで苦しい時にふと聞こえてきたことがありました。その場で味わったことは非日常的なものだったけれど、持ち帰って、日常の中で時々現れて、また心が癒やされたり落ち着いたりする、そういう存在になってるんですね。

山口
それは嬉しいです。セラピストは心が整う瞬間に立ち合う存在と呼べるかもしれません。

思い込みを剥がすのに役立ったり、寄り添ってくれる存在

大浦
表現アートセラピーを全く知らない人にとって、入り口としてはどんなことを伝えればいいのでしょうか。

山口
プレイフル(Playful)っていう言葉があって、ちょっとふざけて遊ぶ、という感覚。大人になると、表現アートというと、知的に描くことですか?歌うことですか?ってなるけれど、わー!って声をあげるだけでも表現なんですよね。

大浦
自然体になった時に自然に出てくるものですか?

山口
自然体になること自体が難しいのであれば、導くものとして、遊びの要素からの「表現」という言葉がキーワードになるかもしれません。アートというと堅苦しくなってしまうけれど、プレイフル。子どもみたいな感覚に戻った時に、自分の中で何が起こるか、ということです。

大浦
表現アートセラピーのワークショップを体験すると、普段いかに理性で頭でっかちに生きているかというのを、すごく感じるんですよね。

山口
例えば、ワークショップで「わー!」って大声を出して泣いたとしても、日常に戻って家で同じように泣けるかといったらそうではないと思うんです。ただ、泣いてもいいんだっていう、大きな声を出したい時に出すとこんな風に自分は楽になるんだ、という気づきを得ること。

今まではそうしちゃいけないと思っていた何かが剥がれて、それを持ち帰ることができるというのがすごく大事なんです。

大浦
思い込みを剥がしてくれますよね。

山口
そうですね、思い込みを剥がすのに役立ったり、寄り添ったりできる存在なのかもしれません。

セラピーの最初のゴールは、心の脱力

大浦
表現アートセラピーって、何か問題を抱えていて、それを解決するために体験するもの、と捉えられているように思うのですが、もっと普通の人、一般の人にとっては、どんな役割や関わりをもてるんでしょうか。

山口
表現アートセラピーの魅力というのは、人と人が頭から出てくる言葉を論理的に思考しながら話す中間に、音だったり落書きだったり詩のような呟きだったり、そういった心により近い表現するアートを介することによって、人とも対話しやすくなるというか。

大浦
和らげてくれるんでしょうか。

山口
そうですね。ただ和らげるだけでなく、投影するものがあると思います。

大浦
確かに、心の鏡のようですよね。自分を映し出してくれる。人と話すことも自分を映し出すことでもあるんですが、どうしても濁るというかノイズが乗ってきてしまうんです。でも表現アートセラピーは、アートを通すことによって、そのノイズも振り払ったものが映し出されるような気がします。それでハッとするような気づきがあったり。

山口
ここでお話しているセラピーのまず最初のゴールは、脱力かなと思います。身体と心の力が抜けると、実際にどんよりした雲が急に晴れたり、低く感じていた空がスコーンと高く見え始めたりする。そんな風に、変わらない日常風景に急に光が射し込むような変化に遭遇することもあります。

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「耳で味わう、英語の世界」から垣間見る表現アートセラピー

大浦
山口さんが音で寄り添ってくださっている、当店の朗読とピアノで英語の世界を感じる連載「耳で味わう、英語の世界」でも、心の脱力というのを感じています。

山口
それは嬉しいですね。「耳で味わう、英語の世界」で弾いているピアノは、語り手の天野さんの原稿に合わせて予め作曲したものを演奏していると思われがちなのですが、実はそうではなくて、すべて一度きりの編集なしの即興演奏なのです。天野さんが書いた制作舞台裏の記事で、メイキングについてお話ししてくださっています。ぜひ皆さんにも読んでいただきたいです。

どんな風に作品が創られていくのかを知ると、聴こえ方が変わることもあるので。それもひとつの体験として併せて味わっていただけたら嬉しいです。私は、天野さんの声を聴きながら、同時に、それを聴いている誰かを感じながら、ごく自然に、セラピストとしてその場に寄り添って、音が紡がれていく、という感じです。

大浦
はじめて山口さんが天野の朗読に音を添えていただいた時、その場で天野は涙を流していたのが印象に残っていて、セラピーというのは理性を突き抜けて、人の心にスッと寄り添ってくれる力があるのだと感じました。

山口
あの時は、音合わせの試し録りをしてみようかという実験的な流れだったので、セラピーの場という認識は誰にも微塵もなかった。けれど、語りの内容にも声にも天野さん自身が滲み出ていて、音でそれに応えるように寄り添ううちに、ごく自然に表現アートセラピストとしての私が現れていきました。あの涙は、セラピーの中で出会う涙と同じ質のものだと確信したのを鮮明に憶えています。

大浦
そうだったんですね。あの連載のように、誰かの心に音で寄り添うようなお仕事をする時、山口さんはどんなことを想いながらその場にいるんですか?

山口
私の音の仕事は、どんな舞台であっても、私自身を表現するというより、私を通して「表現される」という方が近くて、例えば、映像や絵や写真や詩のような、具体的な説明文のない対象を前にすると、私の音は初めて呼吸を始めるというか。それは、言葉で語らないクライアントさんに音で寄り添うときのセラピストとしての自身の在り方と重なります。

表現アートセラピーで、語らない表現からこそ滲み出る純粋で繊細で目には映らない大切なものに触れる感覚は、この「耳で味わう、英語の世界」でのピアノ即興にも現れています。

大浦
天野の朗読に呼応するような山口さんの音が、あの世界をより深めてくれているように感じます。

山口
天野さんのフラットな語りは、聴く人それぞれに感じる自由を与えてくれていると感じます。私の音は、聴く方々の自由に寄り添い、見守り、必要なときにはふわっと包み込める安心の器としてそこに居ます。正にセラピストの役割です。ウェブ上では、一方通行なので、セラピーとは言い難いのですが、この「耳で味わう、英語の世界」からも、表現アートセラピーのほんの小さな入り口体験をしていただけるのではないかと願っています。

20160913-img_2755次回からは、表現アートセラピーの入り口として、自宅で一人でできるワークを山口さんから教えていただきます。朝と夜の5分だけ。そんな小さな時間でも、自分の心を鏡で映すことができるようなワークです。どうぞお楽しみに!

続く

この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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いただいた言葉たちは、大切に読ませていただきますとともに、こちらの連載にてお返事させていただいております。

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