アート片手に、ちょっとおしゃべり

【アートを片手に、ちょっとおしゃべり】「20世紀最高の画家」の称号を持つモランディ。簡素でありながら洗練されたその絵を模写して、心を動かす。

こんにちは、スタッフ天野です。
私はこの春、会社のアート鑑賞手当を利用して、東京ステーションギャラリーで開催されていた展覧会「ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏」に行ってきました。

最初の出会いは駅のポスター。見た瞬間、心をぐっと動かされました。
瓶や器が置かれた何気ない静物画。温かみのある優しいミルキーな色調。シンプルで安定感のある構図。どこか朧げな輪郭線や陰影。そして、静寂な雰囲気。

絵に、音を感じることってありますか?モランディの作品には、私はほとんど音を感じなかったんです。その点も、強く魅力を感じた要因でした。

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簡素でありながら洗練されたその絵を模写。パステルを使って、淡く心地よいモランディの色彩に浸る作業。感じた、フラットな眼差し。

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作品は油彩ですが、今回は手軽さ優先で、パステルを使いました。
指先が粉だらけになりながら、紙に色彩を乗せていく作業は、童心に帰ったように没頭し、時間が経つのを忘れさせてくれます。作品全体を覆う優しく穏やかなペールグレーのトーンは、自分の気持ちにぴたりとフィットして、とても心地よく広がっていきました。

描かれているのは、細長い瓶や、水差し、じょうごを逆さまにしたオブジェなど、無機質のものばかり。それらが中央に置かれています。
実際描いてみて気付いたのは、どの物も平等に描きこまれているということ。

一般的な静物画では、例えばぱっと目をひく真っ赤な林檎があり、その脇にコップがあるというように、主役と脇役が存在します。でも、モランディの作品では、全ての物が、背景や台までもが、フラットに描かれているのでした。

主役も脇役もない世界。その独特の秩序に、静寂さを感じたのかもしれません。
描いていて、心が整い、穏やかな気持ちになりました。

模写は、一瞬だけ、画家と繋がったような親近感を許してくれる。

モランディがこの作品を描いた時の追体験。同じ色を選ぶ。同じ形に描く。同じように構図を眺める。それは、勝手ながら、画家の呼吸に自分の呼吸を合わせるような感覚さえありました。遠くイタリア・ボローニャの小さな画室で、絵を描き続けたモランディと自分。模写を通して覚える(ちょっと図々しく勝手な)親近感。なんだかほんのり愉快です。

模写をして気付く、今、自分の心が欲していたもの。

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ここ最近、バタバタと忙しい毎日を送っていました。子どものお迎え、遊び相手、部屋の片付け、夫の夜食作りなどなど。その中に「模写」という小さな時間をぽんと投げ込んでみると、心が静けさや優しい穏やかさを渇望していることに気付かされたのです。

駅でポスターを見た時、ぎゅっと心を掴まれたように響いたのは、そういう訳だったのか・・・。

美術館になかなかいく時間がなくても、手もとにあるお気に入りの絵のポストカードを模写してみるだけでも、きっと見落としていた自分の心が映し出されて、なんでもない今日という日がほんのり潤ってくれるかもしれません。

絵を描きたいとき、好きな絵の世界に潜り込みたいとき、模写、お勧めです!


ジョルジョ・モランディ(1890-1964)は20世紀を代表するイタリア、ボローニャの画家。数多くの静物画と風景画を残し、生前よりヨーロッパのみならず、世界中で愛されました。アメリカ、ホワイトハウスの一室にも飾られているそうです。

参考文献:ロレンツァ・セッレーリ、ジュージ・ヴェッキ監修、 「ジョルジョ・モランディ—終わりなき変奏」展覧会カタログ、2015年、東京新聞

この記事を書いた人:

東京都生まれ。思春期に米国NY州で数年間を過ごす。 博物館学芸員アシスタント、外資系企業での職務を経て、現在子育てをしながら、少しずつ文章を書いたり、絵を描いたりしている。
素朴で丁寧な暮らしに憧れ、骨董品や器を見るのが好き。夫の影響でキャンプなどのアウトドアも好き。
英検一級、学芸員資格を持つ。横浜在住。 日常のなかにあるちょっとした美しいもの、ことを、文章や絵にしてお届け担当。普段は妻・母として、夫と長男、長女の四人家族を支えているような、支えられているような。

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