アート片手に、ちょっとおしゃべり

【アート片手に、ちょっとおしゃべり】NYメトロポリタン美術館の悲運のミューズ「マダムX」。謎めいた名前の背景にあるストーリーとは?

メトロポリタン美術館はNY州マンハッタンにある世界的に有名な美術館のひとつ。緑豊かで広大なセントラルパークに隣接し、常に多くの観光客が訪れる場所です。私も度々訪れ、たっぷり時間を過ごしたお気に入りの場所です。

ジョン・シンガー・サージェント画『マダムX』は、メトロポリタン美術館の代表的な作品の一つ。作品のサイズは縦横およそ2m×1mで、それほど目立って大きいわけでも、また、特別なスポットに展示されていたわけではないのですが、なんだかとても特別で、惹きつける力強いオーラを感じさせる作品でした。そして、タイトルを見て、あれ?『マダムX』という謎めいたタイトル。果たしてこの女性の正体は?(私はこのスタイリッシュで特徴的なドレス姿から、勝手にジャズシンガーかなぁ?となどと想像していました。)
一般的な肖像画のそれとはちょっと違う、なんだか特別な力強いオーラ。その尽きない魅力はなんだろう。一体どこから来るのでしょう?一緒にこの作品を観てみましょう。

ミステリアスな『マダムX』とその画家。二人のアメリカ人のパリでの挑戦と結末。

ジョン・シンガー・サージェント(1856-1925)はアメリカ人の画家で、若くしてパリに渡り、ロンドンやパリで活躍しました。画風にはスペインの巨匠、ベラスケス(注釈1)の影響が色濃いとも言われています。印象派画家のホイッスラー(注釈2)などと交友があったようです。この作品は当時パリの展示会に出展されると、大きなスキャンダルとなりました。モデルが既婚者でありながら、誘惑するかのように描かれていると受け取られてしまったからです。当時の、既婚女性はかくあるべき、というモラルスタンダードの姿からは離れていたのでしょう。夫人の性的魅力を大胆に描いた当作品は、不謹慎であると捉えられ、また技術の面においても多くの批判を受けてしまいました。

モデルとなった女性はアメリカ人でパリに渡り、年の離れた資産家と結婚、パリの社交界で有名な美貌の持ち主であったピエール・ゴートロー夫人。作品には当初、彼女の実名が題名に記されていましたが、作品への激しい酷評を受け、モデルへの配慮から『マダムX』と、画家自身により改められたと言われています。

サージェントとゴートロー夫人、二人ともにアメリカ出身で、パリの社交界でそこそこ成功を収めていました。しかし、このスキャンダルを受けて、サージェントはパリを出て、ロンドンなどで過ごすようになったといいます。一方、ゴートロー夫人も、その後は目立たないよう、パリでひっそりと暮らしたと言われています。皮肉にも、この作品を通してさらなるブレークスルーを願ったはずが、逆にパリの社交界での居場所を失うという悲しい運命を共にしてしまったわけです。

時を経て、そんな悲運の『マダムX』はメトロポリタン美術館が購入し、アメリカ近代の美術史で重要な作品のひとつとなりました。今でもその存在感、美しさは、美術館を訪れる多くの人を魅了しています。

後編では、この作品に何が描かれているのか、ひとつひとつ、よく観てみましょう。美しい肌、表情、スタイリッシュでエレガントなドレスの質感や襞、ポージング。アクセサリーは?調度品は?
後編に続きます。IMG_2204

 

注釈1:ディエゴ・ベラスケス(1599-1660)スペイン生まれで、宮廷画家を務めたこともある。フェリペ4世の幼い王女マルゲリータを中心に、宮廷に使える侍女等を描いた『ラス・メニーナス』(女官たち)や『教皇インノケンティウス10世』などが特に有名。

注釈2:ジェームス・ホイッスラー(1834-1903)アメリカ生まれ。パリで学び、主にロンドンで活躍した画家。画風には日本美術の影響も論じられている。代表作は白いドレスを纏った少女を描いた『白のシンフォニー第1番-白の少女』やロンドンのテームズ川に架かる橋の風景を描いた『青と金のノクターン-オールド・バターシー・ブリッジ』などがある。

参考資料:
▶︎ Ingo F. Walther (ed.), Masterpieces of Western Art, Köln, Taschen, 2002
▶︎メトロポリタン美術館のウェブサイト、The Met http://www.metmuseum.orgより http://www.metmuseum.org/art/collection/search/12127
▶︎ イギリス BBC-Culture http://www.bbc.com/cultureより http://www.bbc.com/culture/story/20141222-who-was-the-mysterious-madame-x

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この記事を書いた人:

東京都生まれ。思春期に米国NY州で数年間を過ごす。 博物館学芸員アシスタント、外資系企業での職務を経て、現在子育てをしながら、少しずつ文章を書いたり、絵を描いたりしている。
素朴で丁寧な暮らしに憧れ、骨董品や器を見るのが好き。夫の影響でキャンプなどのアウトドアも好き。
英検一級、学芸員資格を持つ。横浜在住。 日常のなかにあるちょっとした美しいもの、ことを、文章や絵にしてお届け担当。普段は妻・母として、夫と長男、長女の四人家族を支えているような、支えられているような。

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