大浦麻衣の「今日も人が好き」

連載「今日も人が好き」no.12|新しい暮らしの「糧」

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「組」というものに属するのは、恐らく高校以来。
東京から福岡に引越して、まずしたことは
同じ「組」の人へのご挨拶でした。

「組」は周辺に住む約20世帯が集まり、
ゴミの回収当番を一緒にやったり、
神社や道路の清掃作業をしたり、
1年に1度お花見会があったり。

何より、近所に住んでいるので
掃除やゴミ回収で顔を合わせているうちに
おすそ分けをし合ったり、
車で買い物に連れていってもらったり、
おもちゃを譲ってもらったり、
散歩途中に世間話をしたり、
引越てから3ヶ月、
だんだんと距離が縮まってきていました。

そんな「組」の人たちと、6月のある日曜日の朝、
共有地や道路脇の清掃作業がありました。
東京のアパート用に買っていた
小さなほうきを持っていくと、
周りの人の手には、電動の草刈機や大きな鎌が。
まずい!と焦っていると
組長さんがさっと我が家の小さなほうきを回収して
「これ使いなさい」と大きな鎌とスコップを貸してくれました。

無事、道路がすっきりきれいになると
参加者は全員集まり、飲み物が配られ、掃除は終了。
鎌とスコップを返そうとしていると組長さんから
「ちょっと来なさい」とお呼び出しが。

「老婆心ながら言わせてもらうとね」と切り出すと、
お布団の干し方のこと、玄関は家の主の顔であること、
庭の剪定方法のことを、びしっと教えてくれました。

「へ~!知りませんでした!」と私は
ただただ感心するばかりで
東京では味わえないこの感覚に「面白い!」と
喜んでいたのですが、その翌日のこと。

ピンポーン。
夜ごはんを食べ終えた19時頃。
玄関の引き戸を開けると、組長さんの姿が。

「昨日、小言いっちゃったからね」
そういって、パックにぎっしり詰めた手作りコロッケと
キャベツとトマトのサラダを手渡してくれました。

突然過ぎて、私はただお礼を伝えることで精一杯。
部屋に戻り、できたてホヤホヤのコロッケを
息子と食べながら、やっと事態が把握できました。

「そっか、言う方も勇気がいることなんだ。」

ようやく目の前のコロッケの意味を理解して
組長さんの気持ちに思いを馳せると
胸が苦しくなるような、
落ち着かない心持ちになりました。

「ちょっと夏ばっぱに似てるよね」と
NHKの朝ドラの宮本信子に姿を重ねて
夫と秘かに憧れていた組長さん。
おまんじゅう、クッキー、ロールケーキなどなど。
普段もお菓子をどっさりとおすそ分けしてくれて
息子が無言で受け取ろうとすると
「何て言うの?」とびしっとひと言。
小声で「ありがとう」を言う息子と
「うん、よくできた」と言う組長さんのやり取りを
いつも横目でいいなあ、と眺めていました。

そういったやり取りがすごく楽しくて、
「小言」でも、親身に接してくれるのが
心の底から嬉しくて、
コロッケも涙が出そうなくらい美味しくて、
そういった気持ちを早く伝えねば、と。

翌々日、息子と一緒にクッキーを焼いて、
ようやくお礼を伝えると、
組長さんは少しはにかんで受け取ってくれました。

その姿を見て、
「私は、きっとこの人と別れるとき
胸が痛くなるんだろうなあ」と思ったのです。

私たちの移住は期限付き。
いつかこの土地を離れるときに
別れを伝えるのが苦しいと感じる相手だろうなと。
そういう存在になっていることに気が付きました。

家族でも友人でもないけれど、
私のことを想ってくれる人が近くにいる。
そして私もその人のことを想う。

それは東京の生活では味わったことのない感覚で
特に、親や上司ではない
年上の人間から見守られていることは
煩わしいと感じることもあるかもしれませんが
私にとっては暮らしの「糧」だなあと思うのです。

とても小さいけれど、
心を豊かにしてくれて、力づけてくれるもの。
きっと、生きていく上で
絶対になくてはいけないものではないけれど
あるのと、ないのではやっぱり違う。

それは、地球の周りを星や太陽が周っていると
信じてた天動説から、地球も一つの星であり、
太陽の周りを周っていることに気付いた地動説並みに、
がらりと、それでいてすんなりと、
自分のあり方が変わったような気がします。

きっと人は、仕事や子育てや家事など、
毎日くるくる
地球と同じように自転しているけれど
そうしながらも公転しているもの。
他の星たちと、共に生きていて
世界の小さな小さな一部分であるということ。

ものすごく当たり前なことでもあるのですが、
きっとこれまでは頭でしか理解してなくて
実感は伴っていなかったと思います。

日常が、家庭や職場という
ピンポイントで完結するのではなく、
周りと地続きになっているような生活になり
これまで心を向けていた方向が
少しずつ変わってきたことを感じている、
移住3ヶ月目です。

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この記事を書いた人:

よりそう。の店長。ウェブマガジンの編集長、オンラインショップの店長業務を担当。2014年から、夫でもある社長・高崎と共に、東京から福岡へ移り住む。海と山とあたたかな人に囲まれながら、息子二人の育児にも奮闘中。

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